「まち むら」71号掲載
ル ポ

お寺の屋根を発電所に
東京都江戸川区 足元から地球温暖化を考える市民ネット・えどがわ
太陽かわら寄進を募り

「太陽光パネルの一部に寄付をして未来に投資しませんか」。寺院の新築や修復にあたり、檀家をはじめとする地域の人々に瓦1枚ずつの寄付を募る瓦寄進。東京都江戸川区にある浄土宗の寿光院では、50年ぶりに新築する屋根に太陽光パネルを設置するため、この瓦寄進を模した「太陽かわら寄進」を募った。
 金額は1口5000円。これまでに80口、40万円の寄付が寄せられている。お寺の屋根は市民立・江戸川第一発電所となり、昨年7月4日、パネルを設置したその日から発電を開始した。東西に長く伸びる寿光院。その細長い屋根の南側には、180Wの太陽光パネル30枚が敷き詰められている。5.4kWのパネルから生み出される電気はお寺で使用し、余った電気は東京電力に売電している。
「南側は墓地なので日光をさえぎるものが何もなく、発電効率がいいんですよ」
 という大河内秀人さんは寿光院の住職であり、発電所を運営する「足元から地球温暖化を考える市民ネット・えどがわ」(足温ネット)の運営委員でもある。
 足温ネットは、地球温暖化防止京都会議を1年後にひかえた96年に、地球温暖化という地球規模の環境問題を地域で考え、行動する団体として誕生した。
「ひとことで環境問題といっても複雑に入り組んでいるので、なんとかしたいとは思ってはいても、自分ひとりが何かをしてもと無力感を抱く人が多い。そこで、できるだけ多くの人に地球温暖化について知ってもらい、自分たちの足元でできる確実な取り組みを実践する場をつくろうと、区内の環境NPOや個人が中心となって結成しました」(大河内さん)
 現在の会員は約100人。温暖化の原因物質であるフロンと二酸化炭素の排出抑制のため、フロンの回収や節電キャンペーンなどに取り組んでいる。


地域で放出されるフロンを回収

 大気中の二酸化炭素濃度の上昇が地球温暖化を招くことはよく知られている。フロンのなかには二酸化炭素の数千倍の温暖化効果をもち、その構成元素に塩素を含むものはオゾン層を破壊する。ところが、日本にはフロンの放出を規制する法律がなく、業界の自主回収にまかされているとして、同ネット事務局長の山求博さんは次のようにいう。
「日本では冷蔵庫やクーラーなど家電製品への対応しか行われていませんが、家電製品に使われるフロンは全体のわずか10%にすぎません。65%と最も多いカーエアコンには規制がないんです」
 カーエアコンの冷媒に使われるフロンは、車の解体時に大気中に放出される。江戸川区には都内にある自動車解体業者の6割、約100か所が集中。年間約30トンのフロンが放出されている。カーエアコンのフロンを回収することは、メンバーにとってまさに足元から地球温暖化を食い止めることだった。
「本来ならメーカーやディーラー、消費者が回収費用を負担すべきです。しかし、現実に目の前で放出され続けている事態を放ってはおけません」(大河内さん)
 足温ネットが働きかけ、解体業者と区公害対策課の三者で解決策を探り始めた。その結果、区が10台の回収機を購入して解体業者に貸与し、業者は無償で回収に協力。ボンベにたまったフロンは千葉県にあるフロン破壊工場でガラス原料に再利用するシステムが整えられた。この運搬と破壊費用を区が負担。年間約5トンのフロンが回収されている。
 97年12月に開催された京都会議には、足温ネットのメンバーと区の職員が、この取り組みを紹介するワークショップを開く。会場でアンケート調査を行うと、地球温暖化への関心が高いはずの人でさえほとんどがフロンの問題を知らず、海外からの参加者は日本に規制がないことに驚きを隠さなかった。江戸川に戻った足温ネットのメンバーは、これまでの回収実績を示して、フロンの回収を義務づける法制化を求めて活動を続けている。


地域で自然エネルギーの普及を

「足温ネットのもうひとつの活動の柱が省エネ。地球温暖化を促す二酸化炭素の排出を抑制するために、生活のなかでの節電と、エネルギーの多消費を促している社会構造の転換の両面から、省エネルギーに取り組んでいる。その一環として「コンセントはまめに抜く」「缶で飲むよりびんビール」など、だれにでも気軽に取り組める「地球温暖化防止のために私たちができる七つの心得」をつくり、さまざなま方法でこれを伝えるキャンペーンを行ってきた。市民立・江戸川第一発電所の建設はその延長にある。
「太陽光発電に取り組んだのは、自然エネルギーを普及させるばかりでなく、電力需要のピークを抑制することによって、余分な発電所を造らなくてもいいようにするためです」(大河内さん)
 足温ネットの母体となった江戸川区のNPOの会員たちは、毎年夏には原発や揚水発電ダムの建設予定地を訪ね、その地元の人々との交流を続けてきた。エネルギーの消費地である都会のために自然が破壊され、予定地の人々が賛否をめぐって対立させられる。それでも、毎年夏のたびに更新される電力需要のピークに備えて、他の時期にはほとんど必要のない発電所が建設される。その解決のひとつとして、電力需要がピークに達する真夏の昼間にもっとも威力を発揮する太陽光発電の普及をめざし、市民立発電所の建設に乗り出した。


運営と収支のノウハウを公開

 しかし、太陽光発電システムはまだ高額で、その価格が普及の障害となっている。国や自治体などでも補助金制度をもうけているが、1kWあたりの価格はようやく100万円を下回ったばかり。余剰電力を売電しても、設置費用を回収するまでには長い時間がかかる。
 5.4kWの設備をもつ寿光院の場合には設置費用も含めて約600万円かかった。このうち約220万円を新エネルギー財団と、東京電力からの寄付金を受けて太陽光発電システムヘの助成事業を行っている「自然エネルギー推進市民フォーラム」の補助金を受けた。
 残りの約370万円は、太陽かわら寄進で集めた寄付金と、環境や福祉分野の市民事業に融資するNPO「未来バンク」からの借り入れでまかなった。寿光院では自家使用分と余剰電力の売電収入を合わせた発電量相当分を毎月未来バンクヘの返済にあてている。足温ネットでは発電量や売電量のデータを蓄積しており、こうした収支も含めて運営の情報を公開し、他の地域でも市民共同発電所の建設に役立てたいと考えている。
「都市部でも市民が自らエネルギーをつくり出せることを江戸川という地域から発信していきたい」と山求さんはいい、「私たちは江戸川区という地域にこだわり続けて活動しているが、他の地域でやりたいという団体と積極的に交流することで、同じ方法で第二、第三の発電所につなげたい」と大河内さんは語る。
 発電開始から1年を過ぎても、見学者は絶えることはない。地域と地球の間を行き来する足温ネットの活動は、多くの地域に市民共同発電所の建設を生み出そうとしている。