「まち むら」72号掲載
ル ポ

バリアフリーのまちづくり
秋田県秋田市 秋田バリアフリーネットワーク
 秋田市の産学官民の各種専門職などが集まり異業種間交流を進めるうちに、「何か行動を起こさなければ」と、バリアフリー研究会を結成した。そのうち、「どうせやるなら本格的に」とNPO法人としての認証を得て積極的に活動を行っている。


誕生までの経緯

 現在、秋田市は人口31万6600、世帯数12万3400の中核都市である。
 ここに、1984年に秋田テクノポリス(高度技術集積都市)開発機構が発足した。500人程のメンバーがいた。研修会などで集まる度に、産学官民・産業間などのいわゆる異業種交流が行われてきた。そのうち、パーティ等を通じて親しくなった有志が、講演等他人の話を聞くだけでなく「自分たちで何かアクションを起こしてはどうか」と1996年3月に始めたのが秋田バリアフリー研究会である。親組織の秋田テクノポリス開発機構が事務局を兼ねて支えてくれた。
 その後、NPO法の施行があったり、秋田テクノポリス開発機構が新法律によって秋田産業振興機構に移行したり、という背景があって、特定非営利法人秋田バリアフリーネットワークを設立して活動を始めた。


会の目的と組織状況

 加入会員は56人で、教育者、公認会計士、医師、行政関係者、市会議員、建築家、製造業者、デザイナー、それに一般市民の問題意識のある人(身障者)など多彩な顔ぶれである。
 理事長は、秋田工業高等専門学校教授を退官後、大学講師を勤め、一級建築士でもある佐々木孝氏である。それに秋田公立美術工芸短大の先生やデザイナー、インテリアデザイナー、市会議員などのスタッフが協力・支援し組織活動を進めている。
 会は閉鎖的でなく、誰でも自由に参加できる。取り上げる問題によって他団体とも協力し合う。そのことを通じ運動に広がりをもたせたいからである。
 会の活動目的は、「志をともにする同士が職業の垣根を越えて幅広く巡視し、生活環境を人間の視点から見直し、バリアフリーのまちづくりを進める」ことである。これまでは、福祉が前面に出過ぎた物づくりが多かった。それだけではなく、人々の心のバリアフリーを呼び覚ますことに挑戦し続けたいのだという。
 これをふまえて「Think and Do」の理念に基づいて、@識(し)る―生活環境の実態把握と課題の発見―A為(す)る―解決策の提案と新産業の発掘―B知(し)らせる―ノーマライゼーション思想の普及―の三つのSを活動方針としている。


これまでの活動状況

 会としての活動内容は、四つの分野に及ぶ。その一は調査・提案で、まちの構造や環境、生活全般についての実態調査に基づく各種の提案を行うことである。その二はまちの構造、システム及び生活用具のバリアフリー化の研究・開発を行うことである。その三はバリアフリーに関する啓発・研修を実施することであり、その四は広報・普及活動である。
 実際の活動は、分科会ごとのプロジェクト制とし、課題となるテーマや担当者を決め実践・行動を行う。これまでの主な活動は次の通りである。
(1)市民の交通手段を便利にするための工夫・改善
 健常者も障害を持つ人も、初めて秋田を訪れる観光客も共用できるピクトグラムつきの「バリアフリー共用便利マップ」を作成するための開発プランニングを行っている。
 高齢者のバス利用の実態調査を行い、風雪寒冷地の秋田の気候を考え、乗車待ちの市民のために、中で待っていてもバスの来るのが分かり、運転手からも客のいるのが分かる屋根付きのバス停留所のモデルをつくりバス会社に寄付。秋田駅東口や隣町の雄和町に設置、普及をはかっている。
 近く実現する市営バスの民営化にそなえ、バス路線の番号制の実施のための改善・研究も続けている。
(2)公共施設等の調査及び改善・提案
 市立病院の協力で夏冬の2回にわたり高齢者や妊婦の疑似体験者、車椅子使用者による院内の外来受診経路や病院付近街路について等のバリア調査と改善・提案を行った。
 秋田駅に付帯設置される自由通路のできるのを機会に構内を車椅子利用者等による各種案内標示、施設のバリア・チェックを行い、大方は直ちに改善された。
 来年、秋田市中心に県内で開催のワールドゲームズにそなえて、外国人や身障者と一緒に主要ホテルのバリア・チェックを実施し関係者に報告を行った。
(3)他機関・団体との提携・協力活動
 これまでの各種活動を通じて提携・協力が容易な機関・団体として、秋田ウェルフェアテクノハウス研究会、秋田県工業技術センター、秋田県理学療法士会、秋田県社会福祉協議会、全国身障者市民フォーラム、NPO懇話会などの存在を知った。これらと常に連携を深め、広報発行や展示会、フォーラム、研修会などを毎年継続実施している。
(4)国内研修・海外研修等の実施
 これまで、抱える課題に応じて県外の先進地域に出掛ける研修を行ってきた。また、バリアフリーの先進国のスウェーデンに過去3年継続して訪問し、経済・技術一辺倒でない思想・哲学を学んだし、アメリカでの研修も行った。
 こうして、まる3年が経過、マスコミが注目し、市民も関心を示して協力をするなどの成果が現れてきている。


今後の課題

 今後しばらくは、@市民中心の交通手段の確保と、A秋田を訪れる人々を如何に暖かく迎えるか、の二つを大テーマに活動したいという。
 課題は、組織内的には中心となって活動する人を多くすること、金がないこと、であり、組織外的には他機関・団体との提携、市民への運動拡大をはかることである。
 1999年10月現在、秋田市の高齢化率は16.9パーセント、県全体では22.7パーセントにも達し、その進行速度は速い。バリアフリー化を必要とする要因は一度除去しても又発生する。そこにある物と生活する人との関係で起こるから当然時と共に状況も変化する。
 だから絶えず誰かがそれをチェックする必要がある。もはやその火中から逃れることができない。組織を強化し、さらに幅広く、多くの人びとと共に活動を続けなければと、佐々木理事長は熱っぽく語ってくれた。