「まち むら」72号掲載
ル ポ

まちづくりの“縁”を取り持つ
山形県酒田市 出羽庄内地域づくりグループサロン
 福祉や環境保全、子どもの育成など、行政だけではカバーしきれないさまざまな分野で活躍する民間非営利団体(NPO)。平成10年12月に、NPO団体に法人格を与える特定非営利活動促進法(NPO法)が施行されたことを受け、山形県内でもNPOの活動が活発化している。
 人口10万人規模の酒田市、鶴岡市の両都市を核とする山形県庄内地方。日本海に面したこの地域を活動エリアに、活動の内容や自治体の枠にとらわれず、自立した市民活動を育成・支援をするのが、「山形創造NPOネットワーク出羽庄内地域づくりグループサロン」だ。地域づくりやボランティア活動に携わる団体など30団体によって、11年12月に発足した。
 「山形創造NPOネットワーク」(本部・山形市)が、昨年3月、県内のNPO団体の育成や活動基盤の強化を目指して発足した。設立の準備をする過程で、庄内地方の地域づくり団体や青年会議所、企業人らに「地域の課題を解決できる拠点が、庄内にも必要だ」との認識が生まれ、グループサロンの設立につながった。山形創造NPOネットワークとは連携は取るものの、活動内容は独自だ。


NPOのためのNPOとして

 塾を経営する傍らでグループサロンの事務局運営に携わっているのが、岡部恵美子専務理事(46)だ。酒田市の隣の遊佐町で、女性のみの地域づくりの活動をした後、グループサロンの設立に参加した。
 岡部専務理事は「立ち上がったばかりの市民団体は、拠点となる事務所がなかったり、活動実績がないことから行政との連携がうまくいかなかったりする。一つの団体で活動するよりは、まとまることで不足や不利な点を補い合えるはずだ」とグループ化の利点を挙げ、「NPOのための何でもするNPOという位置付けだ」と強調した。
 現在の正会員は33人で、このほか、企業が対象となる賛助会員が5社ある。さらに、会費負担はないが、「汗や知恵を出す」(同部専務理事)という協働会員は約130人ほどいる。
 事務所は、酒田市郊外に立つ2階建てのプレハブ。土地や建物、机、ロッカーなどは、地元企業からの提供だ。1階に事務局があり、ふだんの会合に使うが、会員以外に市民が気軽に立ち寄れるようになっている。2階は会議室で、1回1000円で市民団体などに貸し出している。
 文化の日の11月3日、事務所では、新しく発足したプロジェクトの集まりがあった。プロジェクト名はまだ決まっていないが、障害を持った子の親ら数人が、障害児の教育・療育環境の改善を目指そうというのだ。
「役所に行くと、最初から特殊学級を勧められた」「同じ県内でも地域により、行政の対応や公的施設に差がある。まずは、その差を調べてみたらどうか」「最終的には、子どもたちが、自立して生活できる環境整備にまで持っていきたいね」。障害児を取りまく現状について議論を重ねながら、進むべき方向性を探っていた。


次々にまちづくりプロジェクトが

 従来、地域が抱える課題に対し、市民が何とかしたいと考えていても、実際には「一市民が手出しして良いものか」「どうかかわればよいのか」などで悩みがちだった。その結果が、まちづくりに対する行政と市民との距離感に現れていた。グループサロンでは、「市民がかかわりを持てる仕組みづくりを提示したい」との思いから、次々にプロジェクトを手掛けている。
 今年4月から毎週月曜日に、酒田市中心部で開いている農産物を直売する「中町きっちんサロン市場」も、その一つだ。
 酒田市は、南北に郊外型ショッピングセンターがあるため、近年、市中心部の商店街の地盤沈下が著しくなっている。このため、市も、中心市街地の活性化対策に取り組んでいるところだ。
 だが、「メーンストリートには、さまざまな思い出がある。行政が行うのを傍観するだけでよいのか」との思いを持ったメンバーが今年1月、「中心市街地活性化プロジェクト」をスタートさせた。「ハードや資金がなくともできることを」と、商店街関係者や農家、消費者らとの話し合い、道路拡幅に伴って販売所の移転を迫られていた農家の産直グループと、八百屋のなかった商店街のニーズとが一致し、具体化した。
 現在は、直売だけではない。「人が来るのに、ただの買い物をする場ではもったいない」と、6月からは、隣接する施設内で絵手紙を作るコーナーを設置。高齢者が孫連れで遊びに来るなど、多くの市民が立ち寄るようになった。街ににぎわいを取り戻そうという取り組みが、着実に成果となっている。
「常にアンテナを張っていると、課題が引っかかる」(岡部専務理事)。その課題を、メンバーが形にしようとした時にプロジェクトとして動きだす。
 2か月に1度、事務所内で開かれる「サロン交流会」。会員間の親睦を図るだけでなく、毎回、市長や国会議員らのゲストとビールを片手に地域づくりを話し合う場になっている。気軽な話し合いの中から、新たなプロジェクトが生まれることもあるという。
 現在のプロジェクトは、来年4月に酒田市内に開学する東北公益文科大などの庄内地方にある大学との連携を目指したものや、女性の起業・創業の環境整備を研究する会など多分野にわたっている。
 プロジェクト以外では、NPOに関心のある市民を対象にしたNPO法人学習会などの事業や、小規模作業所と企業とをつなぐネットワークづくりなども行っている。


財政が市民サイズの泣き所

 次々にプロジェクトが生まれる一方、悩みもある。それが、事務局を支える財政基盤のぜい弱さだ。プロジェクト自体は行政からの補助などでまかなえるが、事務局の運営費は、年1万円の会費や貸し会議室からの収益などを頼りにしているため、専属スタッフを雇えるまではできない。岡部専務理事は「NPOのスタッフは、きちんとした職業に位置づけられるべきなのだが、できていない。ここが“市民サイズ”の泣き所だ」と指摘する。
 酒田青年会議所まちづくり室長でもある佐藤丈晴理事(33)は、グループサロンの活動を振り返ると、「青年会議所やグループのそれぞれの役割があって、両者は補完し合う存在なのだ」ということに気付いたという。まちづくりに対する行政と市民との距離間については、「グループサロンが、双方にとっての起爆剤になれたら」と意気込む。
 地域を住み良くするには、そこに住む市民の力が欠かせない。市民と行政、市民と企業の“縁”を取り持つグループサロンの存在感が強まることで、地域全体が活性化することを期待したい。