「まち むら」73号掲載
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「ぐるりん号」でめぐり会い・交流を高め合う街へ
長野県長野市 市街地循環バス「ぐるりん号」
 冬季五輪に伴う画期的な道路体系と、多くの競技施設という資産を手にした長野市は、中心市街地の活性化の一環として、昨年4月から市内循環バス「ぐるりん号」の運行を5ヵ年計画で開始。運行から10ヵ月足らずで利用者が18万人を突破した、と言う。長野市民の半数が利用した数に当たる。その好評ぶりを、現地に探ってみた。


「ぐるりん号」で繁華街ヘアクセス

 車体に、青空に特産のリンゴや善光寺、北アルプスなどがカラフルに描かれた「ぐるりん号」は、40人乗りの小型ワンステップバス。運賃は1回大人100円、小学生50円。小雪のちらつく1月末の昼下がり、JR長野駅を発車した「ぐるりん号」の車内は、御年寄りや主婦、学生たちで、19席の座席が、ぼば満席。「出発します。」車内に響く30歳代の女性ドライバーの声。市は川中島バスと長電バスに運行を委託。計3台のバスが9時から17時40分まで(4月より始発と最終便共に30分繰り下げ)JR長野駅を発着点に、目抜き通りの中央通りと国道19号線、長野大通りなど中心市街地の7.5キロを20分間隔で巡回し、1日27便運行している。
 7名のドライバーは、すべて女性で占められている。その一人、長電バスの小川君江さんは、大型2種の免許取得に10回以上もチャレンジして見事合格。長距離トラックからバスの運転へと転職を果たした。最も気を付けている点は、「発進と停止の時で、御年寄りの人や障害者も利用しているから」と言う。「足元にお気をつけ下さい。」雪の中で降車するお客さん一人一人に声をかける気配りは、さすが女性ならではのもの。中央通り商店街の停留所「かるかや山前」から主婦や御年寄りたちが数人乗り、善光寺の入り口にあたる「信大入口」で御年寄りたちが降車。この路線は、年間660万人もの観光客が訪れる善光寺にもアクセスしている。
 ちなみに停留所は28箇所。平均間隔は270メートル。乗客から分かりにくいと指摘された「信大入口」は、4月以降「善光寺入口」に名称変更される。雪の中、信州大学教育学部にほど近い停留所「信大前」(4月以降「信大教育学部前」に変更)で、女子学生たちのグループを乗せ「ぐるりん号」は左折して、国道19号線沿いをゆっくりと走行していく。


繁華街の魅力の復活と「循環バス」

 平成9年11月、長野市は冬季五輪に合わせて建設していた都市計画道路・県庁大門町線などの開通で、市内には長野駅からバスターミナルに抜け北上、さらに信大教育学部前を東に折れて、長野大通りから長野駅に戻る「セル環状線」が完成した。その新しい道路体系を活用し、大型店の郊外展開などで活気が失われた繁華街の活性化や交通渋滞の緩和を図るために構想されたのが、市街地循環バスである。
 平成11年3月、長野市、県、バス会社、長野商工会議所などによって「循環バス研究会」が発足。研究会の会長に就任した商工会議所専務理事の塚田さんは、循環バス運行の狙いについて次のように述べている。『中心市街地をデパートに例えれば、エレベーターやエスカレーターに当たるのが循環バス。したがって理想を言えば無料にしたいところです。文化や伝統が色濃い長野市の中心商店街に、きめ細かく、頻繁に巡回する交通システムを導入し、同時にサービス産業の集積を進めれば、多くの出会いとふれあいが生まれ、街は自然に活気と魅力が増すはずだ。』
 利用者の減少に悩む川中島バスと長電バスの両社は、この機会を新たな客層の掘り起こしのチャンスとみて、循環バスの路線の研究に着手。これまで、市内のバス路線は、長野駅を中心に放射状に延び、横につなぐ線がなくマイカーに頼らざるを得ない、という声が市民に根強かった。路線や運賃について検討を重ねていったが、循環バスが大人は一律100円と決定されるに伴い、競合する既存路線の運賃を100円に値下げし、バスの利用者を呼び戻そうと考えた。ちなみにJR長野駅から善光寺までの既存路線は210円であり、半額以下の値下げに踏み切ったのだ。
 平成12年4月、市街地循環バス「ぐるりん号」は運行を開始。車のデザインや愛称は、市民に親しみを持ってもらうために公募にした。市は、当初1便平均15人の乗車を見込み、その場合は、赤字分の総額1500万円を、バス会社に補助をする方針であった。1月末現在で1便平均23人と、予想を上回る乗客を確保しているが、市は、補助の必要がなくなる32人の乗車を目指していると、交通対策課の宮下さんは言う。


めぐり会い・交流を高め合う街ヘ

「JR長野駅からぐるりん号に乗り込んだ。運転手さんは女性だが『今日はどんな人かな』と楽しみである。Kさんは声がソフトで、とにかく聞きやすい。うっとりするような案内である。子供連れが降りた。ニコッと笑って指先で『バイバイ』をして送り出す。『いいなあ』と思った。」地元の長野市民新聞に掲載された「ぐるりん号のさわやか運転手」と題された市内の乗客の寄稿文である。
 ドライバーに女性を起用したことについて、長電バス取締役の鈴木さんは、「小型のバスで運転しやすいだろうし、なんと言っても女性だと乗客への応対もソフトで親しみやすいだろうと思った…」。当時、長電バスには女性のドライバーは皆無であった。現在100人余りのドライバーのうち、5人の女性ドライバーが採用されている。
 運行から4ヵ月後に行ったアンケート調査によると、利用者の3分の2、66%が女性。年齢は、60歳以上が全体の27%と最も多い。利用目的では、「買い物」が一番多く、他の回答の2倍以上である。次いで「観光」「公共施設へ」といった順となっている。また、利用して良かったと思う点は、「運賃が安い」が最も多く、次いで「運転手の対応が良い」「ステップが低く乗りやすい」といった点が、高く評価されている。
 この調査で注目すべき点は、高齢者の外出の機会が増えたことや買い物をするためにバスを利用している人が多い点である。できるだけ多くの停留所を設け、歩いたりバスで移動して楽しめる繁華街にしたい、といった考えの元に循環バスを走らせた経緯からすれば、そうした現象は「めぐり会い・交流を高め合う街へ」の第一歩と捉えることが出来る。冬季五輪を終えた長野市はいま、大成功の循環バス「ぐるりん号」の運行を通じて、街の魅力を復活させる試みが、着実に進められている。