「まち むら」73号掲載
ル ポ

市民の手で花と緑の美しい街に―産・官・学をまきこんだ市民参加のまちづくり―
茨城県つくば市 つくばアーバンガーデニング実行委員会
 東京駅から高速バスで1時間強。着いたところはつくばセンター。ここは高速バスやスクールバス、路線バスなどが発着する文字通りのつくば市玄関口である。
 1月中旬、筑波山から吹くつくばおろしとともに私を迎えてくれたのは、コニファーや葉牡丹の植わる手入れの行き届いた花壇だった。厳しい冬の季節、残念ながらもっとも花の少ない時期にあたってしまったが、まちから「いらっしゃい」と声をかけられたような気がしたのは私だけではないだろう。
 この花壇をはじめとして、つくばのまちを花と緑で美しくする活動をしているのが、今回紹介するつくばアーバンガーデニング実行委員会(略称TUG)である。


庭師講座がきっかけに

 TUGの発足はその前のさまざまな活動にまでさかのぼる。
 自分たちの暮らしをよりよくしたい、生活者の立場から、それまでの経験を活かして、もっと暮らしやすい社会を自分たちの手でつくっていきたい……、そんな思いから1990年に暮しの企画舎を設立したのが井口百合香さんだ。
 働きたい人たちをネットワークし、花の調査、スーパーの包装など環境調査を中心に手掛けてきた。その活動がつくば市の造園会社の目に止まり、女性たちの意欲や能力を活かす新規事業を提案してほしいという依頼につながった。それが形になったのが「女性庭師講座」である。
 受講生たちの中に、講座だけではあきたらない、講座で得た技術をもってまちを美しくしたいという声が大きくなる。一過性ではなく、継続的に活動したいとの思いは、93年に公園のデザインや管理を自分たちで引き受けようというグループ「花と緑のまちづくりを女性庭師たちの手で」委員会を立ち上げた。


公の思惑と一致

「美しいまちは美しい庭が集まってできる」「お年寄りの庭を技術を身につけて自分たちで手入れしたい」「集合住宅の庭で花を植えながらコミュニケーションしたい」……こんな声を無駄にしてはもったいない。なんとか公共的な活動につなげたい。
 委員会はまず、小さい公園を自分たちでデザイン、管理することを目標にした。講座の開講、苗の交換会、公園でのお茶会、蔓を編んで花篭をつくる講習会など、花をとおして人と人がつながるボランティア活動も並行して進めていった。
 しかし、公園の管理は役所が発注し入札により造園業者が受注するという構造が確立しており、地域の女性たちによる「庭師チーム」が仕事として請け負うことは不可能だった。資金調達は助成金、会費、寄付でなんとかまかなっている状態だった。
 一方、つくば市は市の中心部を市民の手で、市の農家の花を植えて美しくしたいと考えていた。
 立派な建物、大きな道路。筑波研究学園都市を建設した住宅・都市整備公団(現都市基盤整備公団)の事業は97年度で完了し、同公団はまちから引き上げるとともに、管理も市に委ねられることが決まっていた。概成してから20年を経過したまちは老朽化も目立つようになり、かなりみすぼらしくなっている。
 古くなったからこそ手を入れていかなければならない。このタイミングで自分たちの手でまちを美しくしたいという井口さん等の活動と市の意向が重なった。


TUGのネットワーク

 こうして98年、つくば市、茨城県、住宅・都市整備公団などの公共団体や、センター地区に関わりが深い企業、筑波大学などが中心になってTUGが組織された。
 基本方針は、@市民による花のあるまちづくり、A産・官・学の協力、B都市部と農村部の新旧住民の交流、にある。
 このTUGの活動に市民をどう巻き込むか。橋渡し役を務めるのが「女性庭師講座」「花と緑のまちづくりを女性庭師たちの手で委員会」を運営してきた暮しの企画舎である。代表の井口さんがTUGの事務局長を務める。
 TUGの仕組みは別図のとおりである。市や県、企業などが実行委員会のメンバーとなり、協賛金を出す。実際には市の補助金が60%を占めている。事務局は暮しの企画舎が行う。実際に働いて事業に携わっている人たちは有給である。ビジネスとして責任を取る人がいないと事業はうまくいかないと考えるからだ。ここには将来の活動を見すえたNPO的発想ものぞく。
 活動は、花壇整備部会、環境デザイン部会、交流部会の三つの部会に分かれる。庭師講座などの活動をきっかけに専門知識を身につけた女性庭師たち、大学の研究者らが市民ボランティアをリードする。
 各部会の活動は、勉強会・研究会・講座の開催、定期的に行う花壇整備や手作りプランター教室、花のバザール、クリスマスツリーコンテストなど枚挙にいとまがない。核となる部分は組織をしっかりとし、あとはだれでも好きなときに、好きなように参加できる、そんな仕組みづくりを目指している。


「いやしの庭」でみんなの夢が実現

 そうした活動が認められ、TUGは99年には第9回花のまちづくりコンクール建設大臣賞を受賞した。つづいて2000年は「緑のデザイン賞・緑化大賞」を受賞。優れたデサインによるみどりの空間を増やし、潤いのある生活空間を次世代に伝えていくことを目的に緑化プランを募集し、実現のための助成を行う「緑のデザイン賞」((財)都市緑化基金/第一生命保険相互会社主催)。TUGの提出した「いやしの庭」は施工費」1000万円を獲得した。
「子供もお年寄りも、目の不自由な人も、車椅子やべッドの人も、みんなが咲き乱れる花のなかで心をなごませることができるバリアフリーの花壇をつくりたい」。メンバーのそんな思いから発足した園芸セラピー勉強会。ワークショップを立ち上げ、市民が50〜60名も参加して五つの模型をつくりあげた。そのなかのいいところを生かしてメンバーの中の建築家がデサインを描いて応募した。だれがどのように使うのか、たくさんの議論の中から生まれた公園だ。市から提供された敷地はとなりが病院で、車椅子やべッドの人と市民が一緒になって花を植える、手入れをするプログラムづくりがこれから始まる。


「新しい公共」をつくる

 「私たちのやりたいと思っていることは『新しい公共をつくる』ということ」井口さんは言う。いままでは行政が公園などの公共の場所を、業者に発注して管理してきた。本当はそういう場所は私たちのものなのだ。本来市民がよりよく使うのを管理するのが行政の役割だったはずである。しかし、行政が管理すると制約が生じる。例えば誰かが「ここに花を植えたい」と思っても、私有化のようにみられて自由な発想で公共の場所を使うことができない。
 それをもう一度市民の手に取り戻す。つくばのまちを「市民の頭と手」で「美しく楽しくあたたかく」していくのだ。
 TUGの活動分野は「場所」と「空間」。だから目に見えるかたちで「新しい公共」をつくっていくことができる。社会は自分たちの手でよくしていかなければならないのだ。
「それが私たちの活動です。」
 井口さんの口調からは、TUGの基本精神が強く感じられた。