「まち むら」73号掲載
ル ポ

循環型の環境にやさしい町をめざして
新潟県十日町市 NPO「なかまたち」
 十日町市は、新潟県の南部、関東圏からの入口、南魚沼郡から山を一つ越えた、長野県と県境を接する妻有盆地の中心に位置する。市の人口は4万3000人、周辺の中魚沼郡を加えても8万人の地域である。市のキャッチフレーズ「雪ときものとコシヒカリ」そのままに、市規模では世界一の積雪を記録する豪雪地、京都と並ぶきものの総合産地、名高い魚沼米の生産地、きもの産業と農業が地域の地場産業として栄えてきた。
 しかし歴史ある全国の地方都市と同様に、十日町市も保守性が強く、新しい運動は理解されず、とりわけ女性の運動は低く見られがちだった。そんな中、2000年8月14日、十日町市では初めてのNPO「なかまたち」(星野景子理事長)が認証された。


環境問題に取り組む女性たちで結成

 NPO「なかまたち」は、長年石鹸運動を進めてきた女性やリサイクル、EM運動に取り組んでいた女性たちが、一つに集うことで、環境問題を強く押し進めようと結成された。個々の活動では思うように運動が広まっていかない。環境問題に取り組んでいるグループ同士が手をつなげば運動がステップアップするという期待があった。正しい知識が乏しい地域の人々に、環境に対する新たな、正確な情報を伝えようという目的も大きかった。設立準備講演会では、科学評論家で「買ってはいけない」の著者渡辺雄二氏を招き「買ってはいけない商品の話」をテーマにした講演会を開催して大きな反響を呼んだ。講演も賢い消費者、知恵ある市民の広がりを求めたからだった。
 NPO「なかまたち」は、設立趣旨に次のようにしたためだ。「私たちはごみの排出量の増大やダイオキシン問題、産業廃棄物の不法投棄、逼迫する最終処分場対策、高騰するごみの処理経費等自治体にとっても住民にとっても緊急課題であると認識している。そこで、地方公共団体、法人、その他の団体個人に対して、環境保全への意識改革を図るとともに、啓蒙活動を推進するためにネットワークづくりを進め、循環型社会の構築を目指し、環境にやさしい地域づくりに大勢の人と共に寄与していきたい」。設立に加わった女性たちは13人、半年後の現在20人にまで仲間は広がり、エコ商品を陳列する事務所まで構えた。今や十日町市もその活動に一目置くようになった。


『環境を考える買い物ガイド』を作成

 NPO「なかまたち」が結成されて、最初に取り組んだ運動が『環境を考える買い物ガイド・十日町中魚沼版』の作成だった。「スーパーやお店など販売に携わる人やメーカーの人など、全ての人たちが環境を考えた商品を積極的に開発するとともに、消費者も健康や環境を考えて商品を選ぶようにしていかなければならない」という考えから。リサイクルや環境に取り組んでいるお店の現状を把握し消費者に情報を提供する、それが地域の環境をより良い方向に向けていくことになる、として立ち上がった。
 野菜や果物の包装の仕方、有機農法や自然農法、無農薬、減農薬と表示された農作物や詰替用の商品を置いているか、石鹸や再生品は販売しているか。食料品ラップの素材は、レジ袋の対応は、店でトレイ、ペットボトル、アルミ缶やビン類、乾電池など回収をしているか、お店の環境問題に対する取り組み、など設問は多岐にわたっている。市内の72店舗に協力を依頼、うち32店舗が答えてくれた。こうした活動が、商業者、消費者が共に環境への理解を深めていく手だてとなる。
 集まりは月1回。今は集まった買い物調査の出版作業に入っている。本では、調査データーのほかダイオキシンや酸性雨など世界的に問題となっている様々な環境問題について、会員が手分けをしてレポートをまとめ、本に資料として付け加える作業に入っている。
 消費者運動は、ともすると限定したテーマに固執して他の問題から目をそらしがちになるが、NPO「なかまたち」は、様々な活動をしていた人たちが一つにまとまることで、多くの情報を持ち寄れる集いとして、参加した女性たちにいきいきとした場を与えている。


町にとって不可欠な環境団体に

 十日町市は、平成6年に「可燃ごみの指定袋導入」と「自己搬入ごみの有料化」でごみ減量化の第一歩を踏み出して以来、7年には鉄・アルミ・紙類、9年には牛乳パョク、12年にはぺットボトル・トレイ・カップ麺容器の分別収集を実施、さらに平成13年度には、ガラスびん、プラスチック類、菓子箱の分別収集にも踏み出す。分別は、現在の12分類から15分類となる。
 また「燃やすごみ、埋め立てごみの有料化、自己搬入ごみの手数料改定」とごみ減量化、再資源化など、市の矢継ぎ早な環境への対応に注目が集まっている。村山潤市民生活課長は「環境問題は女性という意識がどうしても男社会にはある。NPO『なかまたち』の女性たちが次代のことを考えた新しい動きを市民の中に起こしてくれた。手弁当の草の根の動きと行政がかみ合えば十日町市は環境問題への意識が高い町として評価される」と期待を寄せ「平成13年度には市民団体、グループが集まる新たな環境推進会議を作ろうと思っている」と話す。それもごみ減量化を目指す市にとってNPO「なかまたち」が心強い存在となっているからであろう。
 小さな町だけに、地域内の情報は素早く流れ、環境活動の輪はすぐに出来る。保守的な町とはいえ新しい挑戦も生まれている。市内の回収業者が県内でもトップ水準のぺットボトル、トレイリサイクル工場を昨年建設した。そこで回収されたペットボトルのリサイクル商品の衣料などが、すぐに『十日町でリサイクルされた十日町ブランド』として「なかまたち」の店に並ぶ。また今年度から再生ビンに乗り出す工場ともすでに情報交換している。十日町の環境課題にとって、発足半年で不可欠の団体に認知されたといっていい。NPOになれば責任が発生する。それだけにNPO化へのためらいが各地のグループにはあるが、「まだまだ本来の活動にはなっていない」と言いながらも、いきいきとした活動が、すでに定着している。
「十日町市のリサイクル率は県内20市中16位。1日1人当たりのごみ排出量は1070グラムで増加傾向にある。年間1人当たりの処理経費は高く1万2028円(20市中ワースト2)。建設費や維持費は含まれておらず、それらを加算すると3万542円。これらは全て私たちの税金で賄われている。私たち市民一人ひとりが自覚しなければならない事実である。ごみ問題や環境問題は地道な活動の継続と実践が不可欠である」(平成12年データー)と謳い上げたNPO「なかまたち」への期待は大きい。