「まち むら」73号掲載
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住民待望の自治公民館が完成
富山県高岡市 アカシアニュータウン自治会
 高岡市街地南部を流れる千保川と国道156号沿いに鐘紡町という町がある。繊維・化成品メーカの「鐘紡」が、千保川の良質で豊富な水を求めて昭和16年、絹紡績工場を高岡に操業。市の産業発展に大きく貢献した近代工場の発祥地として市民に親しまれており、昭和43年、同社の名前にちなんでこの名が付けられた。
 アカシアニュータウンは、同工場の敷地内にあったグラウンドと寄宿舎を宅地造成して昭和58年にできた鐘紡町の新しい街である。半径1キロメートル以内には、国宝・瑞龍寺や平成8年に全国都市緑化フェアが開かれた「おとぎの森公園」などがある。
 タウンに入って東西に伸びる幹線道路は、幅12メートルとゆったりした設計で、アカシアの街路樹が家並みに沿って立ち並ぶのが印象的だ。また、3メートル以上の高木を3本以上植栽するという独自の緑化協定を定めており、住民が協力して美しい景観づくりに努めている。平成10年には、ゆとりと潤いのある都市景観づくりに貢献したとして高岡市都市美景観賞の最優秀賞を受賞している。
 昭和62年にアカシアニュータウン自治会が発足し、14年目になる昨年12月末、住民待望の公民館が完成した。当初、40世帯でスタートした自治会は現在、155世帯にまで増加した。今後、自治会活動の大きな起爆剤として利用していこうと、住民の期待は高まっている。


話し合いを持つ場所がない

 自治会が発足したときから、住民同士の話し合いを持つ場所がないことは大きな問題だった。初めは、児童公園での青空会合を開いたり、鐘紡の労組事務所や社員クラブを借りるなどしていた。総会をはじめ、役員会や班長会などは、自治会のメンバーの自宅や他の町内の公民館や施設を借りなければならなかった。自治会の基盤が整い、さまざまな活動が軌道に乗り出した平成5年度に、活動や行事を見直し、住民の意見を反映させていこうと、アンケート調査を行った。その結果、「相互の活発なコミュニケーションを図るために公民館の建設をぜひ」と要望する声が強かった。そして、自治会発足の10年目となる平成8年度の定時総会で、公民館の建設に取り組むことを正式に決定。自治会一般会計からの積み立ても開始した。
 公民館の建設を進める上で、有利に働いた条件があった。高岡市が昭和63年から進めていた公共下水道事業によって鐘紡町は平成8年12月末に公共下水道に切り替わったことだ。これによって団地の汚水処理を行ってきた市のコミュニティープラントが不要となり、その跡地を地区のコミュニティーゾーンとしてよみがえらせることができたのだ。
 宅地分譲の際、開発業者は公民館用地として約50坪の土地を用意していたが、公民館を建てるには少し狭いのではないかと空き地のまま保有していた。
 コミュニティープラントは、住民が維持管理費として土地購入時に20万円支払うことになっていたが、当時の見通しとしては、資金が平成8年ごろには枯渇するということで、その後の資金負担をどうするか自治会で話し合われてきた。
 鐘紡町は、市街地北部の二上浄化センターから伸びる下水道の高岡幹線上で、最上流部分に位置するため、他の地区と比べると工事に着手する時期は遅かったが、その結果、コミュニティープラント跡地を公民館用地として再利用する案が生まれたわけだ。


コミュニティープラント跡地に

 自治会では平成8年9月、市に跡地を公民館建設のために借用したいと陳情。市は自治会でプラントの解体料を負担するならば、無償で貸し出すことを決めた。
 近隣の自治会によると、公民館建設における住民の負担金は20−30万円というのが一般的だが、アカシアニュータウンの場合、建設費約2940万円に対し、1世帯当たり、15万円に押さえることができた。自治会で保有していた元の公民館用地を約870万円で売却、市の助成金約280万円を建設資金に充てた。
 建設事業は、公民館建設委員会が中心となって進めた。元自治会長を委員長とし、総務部と建設部の10人の委員で構成した。昨年2月に委員会で基本計画、資金調達方法、スケジュールなど建設計画について検討を開始。わずか10ヵ月で完成にこぎつけた。
 中条章委員長は「いくらリーダーがよくても、皆の協力がなければできるものでない。公民館建設に対する住民の熱意が強かったことが早期建設を実現した」と振り返る。最も時間がかかると思われていた住民からの負担金集めは、「公民館建設基金口」とした銀行口座を開設し、振り込みの方法を取った。集まらなければ、役員が連帯保証人となって融資を受けることや、業者へ延べ払いをお願いすることなど、最悪の事態を想定していたというが、委員たちの心配を跳ねのけるかのように、約1ヵ月ですべての世帯が納入した。


バリアフリー構造で

 完成した公民館は、敷地面積503平方メートル。木造平屋建て、延床面積137平方メートル。12、10、8畳のそれぞれ和室と10畳の洋室があり、ふすまを開放することで、40畳のスペースを確保することができる。大小を問わず、カルチャー教室や総会など多目的に使えるよう工夫した。また、高齢者や障害者に配慮したバリアフリー構造で、玄関は車椅子用のスロープや点字ブロック、トイレは段差をなくしたゆったりとした障害者用トイレになっている。
 町の景観に調和したデザインや色遣いも特徴で、全体をベージュ色に統一。屋根にはシンボルタワーが設けられ、住民の自治精神を象徴しているかのようだ。建設委員のメンバーと何度も案を練った店舗設計施工会社の建築士は、「ありきたりではなく、インパクトのある公民館にしたいと思った」という。
 13年度の総会が1月末、公民館完成後、初めて開かれた。年度の重点事項の中には、「自治会公民館の活用を進めること」を大きく掲げた。建設委員会の顧問で自治会長の安藤幸太郎さんは「住民が互いに心を開いてこそ地域のつながりが生まれる。公民館を活用していくことが、自治会の活動の大きな支えになっていく」と話す。当面は、総会や会合での利用が主になるだろうが、公民館を核に、住民が一体となった生涯学習の場として利用されることなどが今後望まれる。公民館建設で一丸となったエネルギーを新たな町づくりにどう活かしていけるか、アカシアニュータウンの挑戦は始まったばかりだ。