「まち むら」77号掲載
ル ポ

駐車場問題への取り組みをきっかけに深まる住民の連帯
沖縄県那覇市・真地団地自治会
 南国とはいえ、冷たい北風が吹き付ける2月、那覇市南東の郊外にある市営・真地団地を訪ねた。同団地は94年6月から11月にかけて、自治会自らの手で駐車場を整備。当時としては画期的な取り組みが注目を集めた。12棟が整然とならぶ敷地内は、各棟の前に、それぞれ駐車スペースを設けている。駐車場側の斜面は花が咲き誇り、庭周辺にも桜やソウシジュなどが植栽され、心やすらぐ空間を提供している。車が生活の必需品となった今、市営団地の駐車場確保は全国的な課題である。住民たちがつくった駐車場がその後、自治会によってどう管理・運営されているか。自主運営を通して、真地団地がどう変わったか、リポートする。


自分たちで駐車場を造る

 駐車場問題は、91年の車庫法改正に端を発した。これまで車庫証明がなくても軽自動車を購入できたが、改正によりすべての自動車に証明が必要になった。94年には車の所有者の住まいから2キロメートル以内に、車庫を確保と同法が改正された。それ以前、十分な駐車スペースがなかった同団地では、近隣道路に駐車してしのいできたため、駐車場確保は急を要する問題となった。近くの駐車場と契約するという手もあったが、郊外にあるため、民営駐車場の数も限られている。真地団地自治会は、那覇市に整備を要請。しかし市は、「国の補助金がなく、市財源で整備するには予算がかかりすぎる」と返答するにとどまった。市に依頼しては時間がかかると判断した同自治会は住民に協力を呼び掛け、自分たちで駐車場をつくることに成功した。
 現在、真地団地は500台分の駐車場を保有。1台当たり1000円(1か月)の駐車料金を徴収している。那覇市から土地を賃貸契約、年間150万円の地代を支払う。1000円の手数料で車庫証明も発行する。自治会内に置いている車両担当係の手数料を差し引き、駐車料金の余剰金が生まれる。余剰金は花の苗木購入、自治会サークル活動費、施設整備費などにあてているという。


減少したトラブル

 那覇市の市営住宅管理係によると、那覇市内には21の市営団地がある。うち8市営団地自治会が駐車場の管理・運営を委託され、車庫証明を発行している。自治会は固定資産税の評価額に基づいた地代を毎年、那覇市に納めている。
 駐車場が整備される以前、真地団地では夜遅く帰ってきた場合、車を止めることに苦労した。団地内を何度も回って運良く、空き場所を見つけたとしても、家のある棟から遠く離れている。場所が狭いため、接触事故も絶えなかった。車に傷が入っても、誰がぶつけたか分からないというトラブルもあったという。自治会長の真榮城嘉政さんは「自治会に苦情が殺到した。お互いいがみあったり。あのままでは自治会は成り立たなかった」と振り返る。


夢は花あふれる団地

 団地は今では家庭菜園も整備され、野菜の手入れをする住民の姿もみられるという。真榮城さんは、「目指すは花のあふれる団地」と誇らしげに胸を張る。余剰金が原資となり、自治会活動の幅が広がった。自治会では花の苗をまず購入。住民に呼び掛けて植栽を行った。真榮城さんは夢を広げる。「ひとつの村づくりが出来つつある。いずれは沖縄一の花団地になる。花好きな人が触発されて、花を植え始めると、花がどんどん増えていった」。
 余剰金は施設整備にも活用している。高齢化が進む中、階段に手すりを設置。お年寄りからは、安心して楽に部屋に上がれると好評だ。
 団地内はごみを捨てる人も少なくなった。ごみ置き場が廃止されて、各階段前収集になった点も大きいが、住民意識の変化も大きいという。駐車場を整備した際、住民それぞれが得意分野を発揮した。トラックやミキサー車を提供する者。食事を振舞って、労をねぎらう人も。「すすんで協力する」行為を通して、「この団地に住んでいる」という連帯感が生まれたという。原資を活用したサークル活動も和太鼓、三味線、琉球舞踊、書道、空手などと盛んだ。「行事も手伝う人が増えてね。損得抜きにして、自治会活動に参加する人が増えた。住民以外でも、自治会に参加したいという申し出があるほどだ」と真榮城さん。


各地で活躍する和太鼓集団

 真地団地の夜。太鼓の音が勢い良く集会場に響く。小・中学生が元気な掛け声を上げ、真剣な表情で太鼓を打ち鳴らす。結成4年を迎えた「真地風雲児・風雲太鼓」だ。「真地に新しい文化の創造」を目標に結成。小学生14人、中学生10人、大人7人が参加、永山保さん指導の下、それぞれ週3回の練習に励んでいる。駐車場の余剰金はここにも活用されている。永山さん、真榮城さんは松食い虫被害に遭った松を使い、団地住民に呼び掛けて太鼓をつくった。太鼓をしまう倉庫も設置した。今後、防音カーテンも買う予定という。
 風雲児太鼓は成人式のアトラクション、地域の祭り、老人施設への訪問など出演依頼が年々増え、引っ張りだこだ。太鼓の移動時には父親たちが車を出し、荷物運びを手伝う。親もグループに加わり、一緒に太鼓もたたくなど、家族の結びつきも強めているようだ。
 和太鼓に惚れこみ、全国各地をトラックで行脚。公演を重ねてきた永山さんは「4年経つと腰も座り、打つ音が変わった。目つきも座ってきたね」と語る。結成時から参加しているという中学2年生の鉢嶺綾乃さん、祖堅彩乃さんは「友達と一緒にいることができて、楽しいから続けている」とはつらつとした表情で話す。
 娘と一緒に参加しているという玉城明美さんは、「中学生になると学校や友達との様子がわかりずらいが、ここに来たらそれが見える。子どもたちもいずれは巣立っていく。ここで遊んだ友達とは、大人になってもいい付き合いができるのでは」と目を細める。舞台出演の度に緊張するという金武幸子さんは「1曲覚えたら楽しくなった。上手な人の打ち方を見ていると私ももっと頑張らなければと思う」とやりがいを実感している様子だ。


駐車場のこれから

 駐車場は現在、ほぼ満車、家族が保有する車の台数はピークを迎えている。自治会では環境整備の充実を今後の課題にしている。子どもたちの数も年々、減りつつあり、高齢化に伴って、車も減少すると予想している。今後は空いた駐車場スペースに花壇を整え、花をもっと増やしたいという計画を描く。時代に合わせて、住む人が心地よく住める共同体を目指して、自治会の「村づくり」はこれからも続く。