「まち むら」79号掲載
ル ポ

地元の人材・資源を掘り起こして子どもたちに自然生活の楽しさを
山梨県中道町 エコニンジャクラブ
近所のおばあさんを先生に座布団、枕づくり

 ひとつの活動が終わった後、女性たちはいつものように話し合いを始めた。この席で、ゴミとして出される布団が話題となった。
 「昔は布団がゴミに出されることなんて、決してなかった。綿は打ち直せばまた使えるのに」
 「ソバは実を取ったあとのソバガラだって枕として役立っているのよね」
 「私はまだ布団つくりをしたことがない。子どもたちと一緒に座布団や蕎麦ガラ枕を作ってみたい」
 話がまとまって、次回の活動は「座布団、ソバガラ枕づくり」となった。
 座布団づくりといっても、作った経験のある仲間は限られている。早速、手分けして先生を捜すことになった。
 まず寝具店のおばあさんに声を掛けた。
 たまたま電話に出たのはお嫁さん。その返事は厳しかった。
 「ずいぶん簡単に考えているんじゃないの。子どもがすぐにできるなんてものじゃない」
 今度はご近所のおばあさんに声を掛けた。二人が先生役を快くかって出てくれた。
 「売り物を作るわけじゃない。子どもたちにも立派に作れるはず」と。
 こうして活動内容が決まると、次回の活動は、連絡封筒によって仲間へと告げられた。といっても、郵便ではない。連絡係から近くの子どもたちの手に渡される。子どもたちは学校へ持ち込み、仲間の手から仲間の手へと渡されていく。家に持ち帰ったお知らせを読んで、子どもたちばかりか、ときにはその子の母親、子どもの友だちが参加してくることもある。飛び入りも歓迎されるため、連絡封筒は、お知らせを読んで興味を持てば、誰でも参加できる“魔法の封筒”なのである。その封筒、使い終わったカレンダーを利用した手作りのものである。


“枕をおばあさんにあげたら喜んだよ”

 座布団と蕎麦ガラ枕を作る日、会の代表・中込政美さん(48)の庭には早朝から青い大きなビニールシートが敷かれ、打ち直された綿と布団を包む布が置かれていた。
 二人の先生役のおばあさんをはさんで、子どもたち、女性たちが並んで座布団づくりに励んだ。朝9時過ぎから始まった作業は、夕方までかかって完成した。この間、昼休みには、オニギリと中込さん宅で採れた無農薬の野菜の煮付け、漬け物などがふるまわれた。
 この席でも仲間たちの会話が続いている。「漬け物が美味しかったよ」「子どもたちが野菜を食べるようになった」と。
 長時間の作業である。なかには飽きてしまう子もいる。庭に飼われている山羊が遊び仲間になって、子どもの興味をつないでいく。
 女性たちも、ときには笑い声をあげながら、熱心に取り組む。これまで親から布団づくりや枕づくりを教えてもらえなかった過去を取りかえそうとするように……。
 座布団づくりが終わってしばらくしてから、ひとりの子の話がどこからともなく伝わってきた。
 「あの枕をおばあさんにあげたところ、とても快適だといって喜んでいる」と。
 中込さんは、「あまり口を利かない子なんだけれど、喜んでいる姿が目に浮かんでくる」という。そして、「この声を聞いて、活動の主旨がはっきり伝わってきていることを実感した」といった。主旨とは、「分かりやすく体験することによって、自ら考え、行動できる人間を育てる」という目的である。


自然を活用してもっと快適な生活を

 山梨県の県都・甲府は、盆地である。その南には、古代遺跡、古墳、中世の豪族の居城、神社・仏閣の散在しているなだらかな丘陵が広がり、富士五湖の一つ、精進湖へとつながる道がある。中道エコニンジャクラブは、その曽根丘陵にある。
 中込は、普通の主婦がするように毎日買い物していた。買い物をするたびに、すぐにゴミが溜まった。子どもたちには、そのゴミを庭先で燃やすことを手伝わせてきた。そうしたある日、政美さんはハタと思った。
 “ゴミの処理を子どもたちに頼んだが、子どもたちに有害な煙を吸わせていることになるのではないか”と。そして、小学生だった自分の子どもたちとその友だち、連絡係の女性の8人で「こどもエコクラブ」を結成した。
 この豊かな自然の中で、自然を活用すれば、もっと快適な生活ができると考えたからである。しかし、ゴミの問題、食の問題、汚染の問題……、そのどれをとっても、家庭の中だけでは解決できる問題ではない。地域として変わらなければと、「子どものための、子どもによる、子どものクラブ」とした。しかし、子どもたちは、自分で何をしてよいか分からない状況であったし、環境問題は大人の問題でもあるところから、『子どもと大人のクラブ』へとなった。
 メンバーは、小学2年生から中学3年までの35名、そして、サポーターは仲間のOBやその母親を中心とする9名である。


人材・自然が生かされて地域・家庭の連帯が生まれた

 エコニンジャクラブは、発足以来、平均すれば、月に2回以上の活動を続けている。毎年夏と冬に行われる大気のNO2、水生生物や川の汚染等の環境調査をする一方で、自然とともに生きることを学ぶために、植林や田植え・稲刈り、そば打ち、ホタルの観察会やホタルカゴづくり、ヘチマの化粧水づくり、鬼の面づくり、藍染めなどである。その活動を一言でいえば、自然を大切にし、生かし、自然に溶け込んだ生活を創造していくこと。ここでいう自然とは、天然資源を活用して活動していくということに限られてはいない。会の活動の仕方そのものが、自然そのものなのである。取り上げるテーマは、活動の後のお茶を飲みながらの話し合いで決まるし、教えをこう先生も多くの場合、生活の知恵を生かしてきた地元の専門家や老人たちである。
 活動の一つとして、長野にある自然食の料理教室に出かけて一泊した。そこは、電気もなければガスもない、水道もないところだった。川の水や薪が使われ、屋外で料理をするところだった。
 普段、電気、ガス、水道に恵まれている子どもたちには、度胆を抜かれる生活だったに違いない。ひとりの子が主宰者に尋ねた。
「どうしてこんな生活をするのですか」
 これに対して主宰者が答えた。
 「これこそ普通の生活だよ。人間はこうした生活でも生きられるんだよ」
 その子はその考え方に共感したのだろう。学校の作文には、このときの様子を書いた。作文の出来がよいと、先生からほめられたという。その母親は、中込さんのもとに、その作文をコピーして見せ
に来た。
 活動を続ける中で、自然を取り戻すとともに、今失われてきている地域や家族の連帯・絆が育ってきているのである。
 『子どもがやりたいこと 大人が伝えたいこと 子どもと大人が交わって “楽しく役に立つこと やってみよう”』という考えは、確かに根づいてきている。