「まち むら」80号掲載
ル ポ

地域は子どもと大人が学び合う教室
千葉県・千葉市 千葉市立扇田小学校
 毎週月曜日の昼休み、扇田小学校の公園委員会の子どもたちは掃除用具を手に、外に飛び出していく。目的地は徒歩5分ほどの場所にある「おゆみ野ふれあい公園」。完成してから3年間ずっと、子どもたちは園内の花壇と「とんぼ池」の手入れを続けてきた。
 公園委員を希望した理由を問うと、6年生の女の子は、「公園ができてから、ごみが捨てられたりして汚れるようになったんです。でも、みんなの公園だからきれいにしたいと思って――」と答えた。「みんなの公園」という言葉には、地域の人々みんなという意味のほか、扇田小学校の卒業生を中心にみんなでつくった公園だという意味が込められている。


人と自然にやさしい公園に

 千葉市緑区おゆみ野地区は15年前、都市整備公団によって開発された。その後に開校した扇田小学校は「地域に開かれた学校」を教育理念に掲げている。開校当時1年生だった当時の4年生は、社会科の地域学習の中で、地域の人々や公団の人を招き、まちづくりを考える「扇田フォーラム」を開いた。そんな交流をきっかけに、公団から「子どもたちのアイディアを新しく駅前につくる公園づくりに生かしたい」という打診を受ける。
 長く環境教育を実践してきた担任の石井信子さんは、「環境問題を引き起こしたのは人間だからこそ解決できるのも人間だと思える子どもに育ってほしい」と考えていたこともあり、このチャンスを生かしたいと思った。公園づくりには、5年生に進級した子どもたちを中心に全校で取り組むことになった。
 子どもたちはまずは現場を知ろうと、公園予定地だった雑木林に何度も足を運んだ。生き物探しをするフィールドビンゴのゲームに興じるうちに、本に登り、つるにぶら下がり、貝塚や蟻塚を発見し、桑の実を摘んで□にし始める。
「自然は大切だと私がいうより先に、子どもたちは『この自然を残したいね』と話し合っていましたね」と石井さんは振り返る。公園づくりのキーワードは「人と自然にやさしい公園」に決まった。


子どもたちのアイディアが採用された

 ひとりひとりの子どもたちは自分の思いを実現させるために思い思いのイメージを描く。しかし、合意形成への道は険しい。他の子どもたちや地域の人との話し合いの中で見直しを迫られることもある。たとえば虫の博物館がほしいという主張には「そのためのお金はどうするのか」と、ダンボールの滑り台をつくりたいという意見には「雨の日の収納はどうするのか」と問い返される。石井さんはつねに、自分の意見がどれだけ聞いてもらえたか、相手の意見をどれだけ聞いたかを知る「振り返りカード」を配って、自分の主張だけを押し通そうとせず、少数意見も大切にしながら議論を進めるよう指導した。
 公園は子どもたちだけのためのものではない。赤ん坊からお年寄りまでの地域の人々が利用し、鳥や虫の生息地や中継地でもある。子どもたちは父母の意見を聞き、地域の人へのアンケートを行ない、他の公園を調査して利用者にもインタビュー。さまざまな立場に立ってロールプレイやディベートを行ないながらアイディアを練り上げ、模型や劇を使った発表会にこぎつけた。
 これを受けた公団では、できるだけ多くの案を生かそうとした。貝塚の保存、遊具、落ち葉のプール、とんぼ池、みんなで手入れする花壇、時計、花の形の街灯など、多くの提案が採用された。子どもたちも自分たちの思いがこれだけ実現するとは思っていなかった。
「子どもたちに対して『世の中そんなに甘くはないよ、みんなのアイディアが一つか二つ生かされればいいほうかな』と話していた私自身も驚くほど、たくさんのアイディアが採用されました。公団や市役所、地域の人たちが最初の活動からスーパーアドバイザーとして活動に参加し、合意形成の過程も見ていたので、子どもたちの願いを大切に思ってくれたんだと思います」(石井さん)
 子どもたちはその後も土器と貝塚ウォールやトーテムポールを作成し、落ち葉のプールに入れる葉を集めるなどして公園づくりに参加した。児童会で名づけた「おゆみ野ふれあい公園」の開園式の司会進行も子どもたちが行なった。その公園はいまも、地域の人がつくる清掃協力会、父母たちの公園ボランティア、そして公園委員会の子どもたちによって管理されている。


ビオトープと節電に挑戦

 公園づくりの主役となった子どもたちは卒業し、石井さんはいま公園が完成したときに4年生だった6年生を担任している。そして、公園づくりと同じように地域の「名人さん」や専門家の多くの人の協力を得ながら、子どもたちといっしょにビオトープをつくり、節電にも取り組んでいる。ビオトープづくりのきっかけを、ある男の子は次のように話す。
 「去年の理科の授業で、近くの大百池公園にメダカを探しに行っても見つからなかったんです。休憩地がないと生き物が生きられないと知って、学校にビオトープをつくることにしたんです」
 芝生をはがし、設計図どおりに築山や池の形をつくる。2トントラック4台分の粘土はリヤカーと一輪車で運び、石灰と混ぜて水が漏れないように池や川の底に叩きつける。「名人さん」たちはその場にあるありあわせの材料で道具をつくって子どもたちを驚かせ、子どもたちは目を輝かせて作業に励む。石井さんのいる場所はどこでも、子どもたちと大人とが力を合わせて学び合い、成長し合う教室に変わる。
 石井さんらはさらに環境にやさしいエコスクールをめざそうと、節電にも乗り出した。扇田小学校は財団法人省エネルギーセンターの「省エネ共和国」の建国を宣言。専門家などを講師に招いて省エネルギーについて学びながら、日常的な省エネ活動を続けている。
「子どもたちがビオトープをつくったから環境にいいことをしていると思い込まず、自分たちのライフスタイルを見直すことも必要だということを学んでほしかったんです」
 みんなで使わない電気を消して回る小さな努力の積み重ねで、昨年4月には電気使用量の5%削減という目標を大きく上回る15%削減を達成した。 ビオトープが完成すれば、雑木林の中にある大百池公園、みんなでつくった「おゆみ野ふれあい公園」のとんぼ池の間と、この学校ビオトープの間をさまざまな生き物が飛び交うことだろう。