「まち むら」81号掲載
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地域の人材、産物を活用して元気の出る自治会に
鹿児島県・姶良町 住吉自治会
 鹿児島市をはじめ6町に隣接した人口44,600の姶良町〈あいら〉の中心地から約6キロほど北にある住吉自治会(80世帯、200人)では、エコミュージアムの発想に学び、地域の活性化に取り組んでいる。
 住吉地区は過疎化工員齢化か進む田園地域。住吉自治会では、豊かな自然、地域の文化・産業を活かさぬ手はないと、住吉の見直し、地域にあるモノ・ヒト・コトを自分たちの手で活かす・創ることを基本として地域づくりをしている。


住吉の元気は住吉池から

 住吉自治会では、用水路のあちこちにホタルがいることに注目し、まず「ほたるの里」づくりに向けて、「ほたる部会」を設け、「ほたる部長(小園新一さん)」を選任し活動を始めた。小・中学生も参加しての現地調査や専門家を招いての学習会、各家庭で親子が一緒になっての観察・飼育体験を通じて、楽しみながら現在も飼育活動をしている。
 ほたる部会では、専門家のアドバイスを得て、里山を流れる小川を「ほたるの里」に選定し、大きな看板を建てた。ここには、メダカ、ドジョウ、ザリガニなども棲息し、昨年の10月にはホタルの幼虫を町の「子ども町発見隊」の受講生も交えて放流した。さらに、用水路の補修、カワニナの放流、廃油の回収等の環境整備や学習の継続に努めホタルの住みやすい地域をめざしている。
 また、昨年、地域の田園道路500メートルを「ほたる道路」と命名。自治会を挙げて孟宗竹で作った80個の灯ろうを道路につるした。宵闇迫る頃、ローソクに火を灯すと暗闇に灯火が浮き、まるでホタルが飛んでいるような幻想的な世界が生み出される。週末、ホタルを楽しみに訪れる人々には好評であった。
 このほたる部会の取り組みに町の生活排水検討会も共鳴して「蛍の町」をめざし町内はもちろん、他市町の「ホタル同好会」との連携をはかっている。
 「このホタルの活動が次の活動への弾みになった」と小国さんは語ってくれた。


レンゲの里づくり

 住吉池の恩恵を受けた肥沃な田んぼを生かすため、最近めっきり少なくなったレンゲ田の復活をとの声があがった。「レンゲ部会」を設置、レンゲ部長の瀬戸口周二さんを中心に播種田の調査から始めた。さらに、町の農政課や養蜂業者などの協力で種を入手し、初年度は20ヘクタール、2年目も3年目もそれぞれ20ヘクタールに種をまいた。地域の高齢者から小学生まで参加して、田んぼに横一列に並び、高齢者の手ほ
どきを受けながら、とても楽しくにぎやかな作業であった。
 レンゲの花が真っ盛りの4月には、レンゲ祭りを開催。レンゲのレイや指輪づくりで高齢者と子どもとの交流があり、子どもの発案によるレンゲゼリーの試食コーナーも設けられた。このゼリーはとくに好評で、子どもの感性の豊かさを改めて認識した場面であった。
 ただ、課題はレンゲの発芽率が寄生虫の発生で期待したほどではなく、一面のレンゲの花とはいかなかったことである。そこで、レンゲ部会では農林試験場の支援を得て、害虫対策のための実験に取り組んでいる。


黒米づくりにチャレンジ

 現在、休耕田になっている水田に「黒米」を栽培しようとの提案があった。早速「黒米部会(部長・戸島徳秋さん)」を立ち上げ、これにチャレンジすることになった。最初、水を浄化するため、地元産の竹炭200キロを投入した。そして、試行錯誤しながらも自然栽培に努めた。脱穀も昔ながらの足こぎの脱穀機で作業した。収穫された黒米大さじ1杯を白米(3合)に入れて炊くと赤飯のように炊きあがり、もちもちし
て味がよく、しかも健康にも良いとのことで好評であった。そこで、この黒米を300グラムずつ袋詰めにして炊き方のマニュアルとコメントを入れて自治会で立ち上げた「元気店住吉池」で販売したが、注文に応じきれないほどで、2年目からは栽培面積を広げている。それでも大量注文があって10分に対応しきれない状況だという。


伝統の地場産業の再活用

 姶良町の伝統の産物は、塩、米、わら製品。とりわけ豊富なわらを使ったわら製品は「帖佐かます」「帖佐箆」として知られている。昭和40年代までは、主婦の夜なべ仕事として、家計を支える貴重な収入源であった。自治会長の吉村宏さんは、地域に残っている箆機に注目し、自治会として、かますやムシロづくりに取り組んだ。ここでは昔取った杵柄よろしくかつての名人の出番となった。また、体験コーナーも設けた。すると、マスコミが注目し次々と取材があり、全国ネットで放映された。放映直後には、早速県外から注文がきたほどである。納豆屋さんなど、ムシロにこだわる人たちからの注文が絶えない。このムシロ打ちは、高齢者の出番で地域に元気が戻ってきている。


豊富な孟宗竹にも注目

 住吉地区は孟宗竹林が多いが、高齢化により竹林の管理まで手が回らす、手付かすの状況であった。おりしも竹炭ブーム。地域の孟宗竹を活かさぬ手はないと、竹炭部会(部長・志戸岡務さん)を立ち上げ、くぎを一切使わないで、葛を使っての炭焼き小屋や炭焼き窯を自分たちで作りあげた。早速試運転して竹炭のオーナーを募集し、炭焼きをスタートした。
 この竹炭部会では、竹炭を住吉治の取水溝に投入し、水を浄化することも目的の1つにしていたので、豊富な竹林を間伐しての炭生産に励んでいる。すると、焼きの過程で竹汁が採れ、これがブームの風に乗り売れ出し、生産に追われる状況になった。竹を焼く際、焼き方によっては、竹の笹が残こる(竹の姿焼き)。
これが、インテリアの材料としても注目を浴び、注文がくるようになった。また、竹炭の多様な需要も増
えて注文がくるようになった。志戸岡部長が中心となり、注文に応じて、量が多いときには、自治会のメンバーに声をかけ、応援を得て作業を行なっている。


自治公民館の開放で中・高校生が利用

 住吉自治会では、こうした地域の産物を利用した活動ばかりでない。一例を挙げれば、自治公民館。これまで、普段は、住吉自治公民館は施錠してあり、利用者は館長に許可を得て、かぎを借りるというシステムであったが、3年前から施錠を解いて住民みんなが自由に使えるようにした。すると、中・高校生が卓球を楽しむようになった。当初、自治会内には、開放を不安がる声もあったが、現在まで大きなトラブルは起きていない。「案するより産むがやすし」である。若者たちが自分たちの自治公民館として利用してくれることを吉村さんたちは期待している。
 また、地域のコミュニティの拠点としての自治公民館にしたいとも願っている。そのため、自治会員の
アイデアや技術、力を結集して、「行きがいのある、楽しく、元気のわく公民館」にと改修を計画中である。
 今年、吉村さんたちは、2つの事業を新たに計画している。1つ目は「元気店住吉池2号店」を「わら工芸館(仮称)」として、建設すること。ここでは、わら製品の製造、販売のほか「体験コーナー」も設けることにしている。2つ目はレンガ焼き窯の復活。この地は、昭和40年代まではレンガの産地でもあった。しかし、今では打ち捨てられたレンガ窯が1基残るのみとなっている。この窯を修復し、レンガづくりを
復活させ、この技術を継承することもめざしている。「これらの活動を起爆剤として、さらに地域のみんなが元気になるようにしたい」と吉村さんは抱負を語っている。
 このように住吉自治会では、地域の人材、産物を活かし、「作る人元気、買う人元気、地域が元気」を合い言葉に自治会づくりをめざしている。