「まち むら」82号掲載
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主婦の感覚を活かしたまちづくり
秋田県・能代市 ニューウェ〜ブ
 秋田県能代市は、県北部を横断する米代川の河口にある人口53,000人の木材を中心とした産業都市。豊臣秀吉にも献上した秋田杉の集散地として栄え、秋田木材会社(秋木)全盛時代には、東洋一の木都といわれた。
 そんな能代市に主婦だけのまちづくリグループがある。この6年間、毎年テーマを決めて学習会を重ね、足で歩き、目で確かめ、市民にアンケート調査をして問題点や課題を分析、行政側に市民の声として訴え続けている。
 日常生活の中で感じるごく当たり前の視点を、身近かなまちづくりに生かそうと活動を続ける「ニューウェ〜ブ」。市民組織のボランティアグループだ。
 発足したのが平成9年。現在の会員は14名。元小学校校長の柴田郁会長は「発足当初は男性も3、4人いたのですが、いつの間にか女性だけに…。それも平均年齢が限りなく60歳に近い“高齢主婦”の会になってしまいました。でも会員のまとまりは抜群。何よりも自分たちの住む能代を良くしたいという思いは誰にも負けません」
 ニューウェ〜ブは県教育委員会が開催した「男女共生社会参加促進事業」のセミナー受講者を中心に立ち上げた。家事や育児、掃除、洗濯など女性の仕事と決めつけられてきた分野に男性も協力することで真の意味での男女共生社会を目指そうがねらい。セミナーでは講座や意識調査、グループ討論など研修を積んだ。
「せっかく勉強したものをその場限リにしないで、まちづくりに生かしていこう、自分たちの歩幅で、まずできることから一歩を―が、会のモットーです」(初代会長・加藤チヌさん)


公衆トイレを点検し、改善を訴える

 最初に取り組んだテーマは、公衆トイレの点検。市内40か所におよぶ公衆トイレを一つひとつ回った。調査はドアの施錠、清掃状況、窓ガラスの破損など11項目に分け、良い悪いなど6つの基準で評価。備考欄には落書きがひどい、樹木のせん定や下草刈りが必要など付記している。また市民58人にアンケート、
@利用者A時間帯B利用した時の感想など自分たちの調査と一緒にまとめ、これを大きな図表にして写真も展示。市公民館祭で公表した。
 市民からの反響は大きかった。市も重い腰を上げ、破損個所の補修や壊れた電灯の取り換え、消毒を実行したほか、これまでに4か所を水洗化している。公衆トイレの点検は継続テーマとして毎年調査している。


風の松原保全活動の一本化のきっかけに

 2年目は、「21世紀に残したい日本の自然百選」や「日本の音風景百選」など全国5つの百選に選ばれている風の松原調査。
 秋田県の日本海沿岸は風が強く、田畑だけでなく家屋までも飛砂に埋まった。寛政9年(1797)、砂留役だった栗田定之丞が18年かけて海岸に黒松を植え防風林とした。能代地方1市2町村にまたがる延長14キロ、面積764ヘクタールの黒松林で、日本五大松原にも数えられる。風の松原はこのうち能代市
にかかる一部で、市民の公募で愛称が決まった。市民の憩いの場として散歩やジョギング、なべっこ遠足などに訪れる市民は多い。
 会員はまず自分たちの足で風の松原を現地検証。ごみ袋片手に、自動販売機やベンチ、東屋周辺の空き缶やびん、たばこの扱い殼を袷った。この後、1か月かけて616人の市民から聞き取り調査を実行。風の松原に関心があるかでは94.5%があると答え、利用状況では散歩、子どもの遊び場、ウォーキングの順で市民は公園の感覚でとらえていることが分かった。
 市民が誇りに思うことでは、@整備が行き届き、潮のかおりのする素晴らしい自然A夏は涼しく森林浴に最適B子どもを安心して遊ばせることができる―など。逆に残念に思うことでは、@松くい虫の被害が広がっているA看板、標識の文字が古くなって見えない。B散歩中の犬の後始末をしていないC観光資源としてPR不足だ。また、望むことでは、@先人の遺産をしっかり守り次世代に引き継ぎたいA市は風の松原を考える市民講座をつくってほしいB行政と民間が協力、遺産を守り育てる道を検討すべきだ―など。
 そして市公民館祭での展示発表。市民だけでなく、行政側の対応も素早く反響は大きく広がった。平成13年には、それまでいくつかに分かれていた市民グループが一本化した「風の松原に守られる人々の会」(略称・松原の会)を立ち上げるきっかけとなった。
 平成11、2年は もっと足元からと「暮らしについての意識と実態調査」。11年は満60歳以上を対象としている。市内在住の304人からアンケートの回答を得た。今、一番不安に思っていることは男女とも健康面で174人、寝たきりの心配をする人は167人、経済面は63人だった。介護については、「頼れる人がいる」は男91%、女78%たったが、男性(夫)は女性(妻)頼みで、女性は施設を希望している人が多かった。


市民に身近な能代港をめざして

 そして、6年目に取り上げたテーマ学習が「港が明日を築くまちづくりってどんなこと?」。平成13年に能代港に4万トン岸壁が完成した。「これを機会に港がまちづくりに及ぼす影響を探りたかった。4万トン岸壁、外国船入港が過去最高と報道されても私たちにはさっぱり分からない。それでは勉強してみようということになった」(柴田会長)。学習のポイントは港の経済効果、物流、コンテナヤードなど港湾施設、展望と課題の4つ。
 市役所や商工会議所、国土交通省能代港湾事務所へ足を運んだ。担当者から港の歴史、施設の整備や利用状況、賃物の動向、利・活用について説明を受け自分たちも学習会を重ねた。
 柴田会長は能代港の発展を考えるシンポジウムで市民代表として登壇、「港の利・活用は企業や行政の取り組みも大切だが、市民レベルでのかかわり方も課題として残っている」と主張した。アンケート調査でも、4万トン岸壁は知っているし実際に見に行っている。しかし、どんな輸出入品を扱っているか、まちの活
性化に期待できるかでは半数以上が、「よく分からない」と答えている。「市民の財産を大きく生かす工夫をするため、もっともっと学習を続けてゆく」と柴田会長。


優しく、心豊かなまちを子どもたちに残したい

 今、市民は主婦のまちづくりグループ、ニューウェ〜ブの活動の一つひとつに注目している。副会長の本間英子さんと保坂悦子さんが口をそろえる。「ただの主婦が勉強することで変わった。能代が優しく、しなやかで、心豊かなまちに―。そんなふるさとを子どもたちに引き継がせたい」。地道な努力が市民の目線を上げさせ、問題意識を提起、“あしたの能代づくり”に新しい、大きなうねりを起こし始めた。