「まち むら」84号掲載
ル ポ

里山田園づくりに情熱を燃やす
北海道・当別町 農村都市交流研究会
新しい時代の地域おこし

 自然豊かな里山に、田舎暮らしを求める都会の人を迎え入れ、その人だちとの交流の中で新しい農村づくりを目指そうという活動が、北の大地・北海道札幌市の近郊の農村で芽吹いている。当別町農村都市交流研究会(小谷栄二代表)が展開する「里山田園づくリ」がそれ。まだ緒についたばかりだが、すでに趣旨に共鳴した5家族が里山に居を構えたほか、移住を準備中の都会入も何人か。農村地帯の新しいあり方を模索する地域の人たちと、真に人間らしい暮らしを求める都会人との思いがドッキングしたユニークなプロジェクトで、新時代にふさわしい地域おこしとして注目される。


魅力いっぱいの金沢地区里山

 当別町は札幌の北隣り、人口2万人のまち。大都市近郊の位置にありながら、豊かな田園が広がり、自然いっぱいの里山も残る農村地域である。
 「里山田園づくリ」の舞台は、その北端の金沢地区。里山は、旧国道に面したなだらかな丘陵の山裾の部分に散在する。前面に広々とした農地、後背にマツ、ナラ、カエデなどの生い茂る丘陵。その中間部に草地、住居などに適しか平坦部、その中に点在する大小の池。少し荒けずりながら典型的な里山のたたずまいで、かねて地元の入札「住んでみたい」と希望が多かった場所である。
 それが戦後、国道の移設に伴い取り残され、逆にすばらしい自然と景観だけがそっくり残り、農村暮らしをしたい都会人にとっては魅力たっぷりの地域となった。
 一方、町には、長い農村地域の歴史から田畑はもとより酪農、花、畜産など農業分野で“鉄人”級の人材が多く、農業技術の蓄積も豊富。しかしここでも、農家の高齢化が進み、後継者難も深刻。このままでは当別の農業、強いては町自体の将来も先細りだ。何とかしなくては…。


危機感がアイデアを生む

 自らも金沢地区の里山に牧場を開き、農業資材会社を営む小谷栄二代表は、里山の活用と農業人の組合せに地域づくりのカギかある、ととらえた。小谷代表は言う。「これからの日本は地域が良くならなければだめ。そのためには新しい血、つまり知恵や情報や人脈を待った『人』が必要だ。一方で、田園暮らしに豊かさややすらぎを求める都会の人が増えている。残っている里山にその人たちに住んでもらい、地元と双方ふれ合う中で、人や技術や情報を交流させれば活力ある地域が生まれるに違いない」。
 そんな想いを持った数人の仲間が集まり、98年、研究会が発足した。里山に移住してもらうに当たってば、自然を守り、コミュニティを作ってその人の技っているアイデアや情報、人脈を提供してもう。一方、受け入れる地元としても、初めての農村暮らしに戸惑わないよう土地選びから家屋の建築、営農の方法、時
には職探しまで、地域社会に溶け込んでもらうためのさまざまな情報でバックアップする。
 そこで研究会のメンバーは、農業者が中心ながら、建築屋さんから食品加工の人までさまざま。とはいえ、みんな当別町の地域活性化にかける情熱は人一倍強い面々である。
 「里山田園を創る過程で、農業後継者が生まれたり、新しい作物や新商品の開発といった思わぬ展開が期待できる。何しろ当別には、バックに、札幌市を中心とした230万人という大消費地が広がっているんですから」と、どのメンバーの表情も屈託がない。


20年かけて実現を目指す雄大なプラン

 研究会の「里山田園づくリ」構想は3本柱からなっている。
 一つは、里山の山裾に立地する田園住宅づくり。2つは元からある田園地帯と都会からの移住者の交流の場となる指点づくり。そして3つ目として最後に目指すのは、里山の遊休地と町有林を活用した牛が拓く自然公園づくり。これを、会発足から20数年あまりの長い期間で成し遂げ、日本のどこにもない元気な農村
を実現しようという、北海道ならではの雄大なプランである。
 会発足と同時に手掛けたのが里山での田園住宅づくり。里山に土地を持つ地主さんに会の趣旨を熱心に説明し、納得してもらったところで、一期分として3600坪を確保。これを山林、平坦地合わせた5区画(1区画500〜900坪)に分け、全国に購入者を慕った。道内外から50組もの問い合わせかあり、現地見学
会や研究会との懇談会などを通じて3年間に5組の移住が決った。
 ゆっくりとしたペースなのは、受け入れる側に地域の人材になる『人』を厳選した背景がある。
 選ばれた5組は、研究会でのバックアップのもと、田園型のコーポラティブ住宅を次々と建て、田園での新しい生活をスタートさせた。里山にマッチするようにすべてが木造。札幌に通う会社員、脱サラして当別で地元食材を使った食べ物屋さんを開いた函館の一家など、職はまちまちだが全員、当別の里山が気に入っ
て、骨を埋ずめたいという人たちだ。
「自然豊かな里山で、とにかく広いということで決めました。春は裏山での山菜採り、夏は池や川での釣りやカヌー、秋は燃えるような紅葉、そして冬はクロスカントリースキーやかまくらづくりと、家族ともども(奥さんと2人の子ども)心豊かな毎日を送っています。地域へは、いずれ、何らかの返礼をしたいと思います」…最初に住んだ会社員、門脇充さん、明子さん夫妻はここでの暮らしに満足し切った表情で話す。
 このあと里山での田園往宅づくりは、最終的に100戸を目標に金沢地区に点在する6か所の里山ゾーンで展開される予定である。


第2、第3の柱も着々と進行中

 この住宅づくりと平行して、目下進行しているのは第2の柱の田園地帯と新居住者の交流拠点づくり。これはすでに、里山の道路越しにある廃校の旧金沢小学校とその周辺の一帯と決め、ここに移住する7区画の家族も決定、うち3戸は家を建設中だ。ただ、旧小学校の校舎は町の手で取り壊しの予定があり、研究合作
地域の人たちが、「里山田園づくりの核となる大事な場所。何とか残して」と、存続連動を続けている。
 最後の残った牛の拓く自然公園づくりは、実はまさに研究会の狙う究極の目的である。自然林の林の中に牛を族ち、蹄耕法という方法で草地づくりを行ない、緑豊かな環境を保ちながら、人と動物が共存できる新しい考えの自然公園なのだ。完成すれば動物を飼いながら、広く町民や都市住民に解放し、レクリエーション、ハイキング、乗馬、森林浴など、さまざまな自然フィールドの活用の場と変身する。
 こうした一連の活動に対して、「環境に配慮した美しいまちづくリ」を掲げる当別町作住民も大歓迎、優良田園住宅建設のための農地の転用事務や、各種情報の提供など側面からの支援を続けている。