「まち むら」84号掲載
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自治会館に太陽光発電システムを設置
滋賀県・野洲町 小南自治会
 滋賀県野洲町には、全国初、いまも唯一の太陽光発電システムを乗せた自治会館がある。設置したのは環境にやさしいまちづくりをめざす200戸の小南自治会だ。しかし、太陽光発電の導入は自治会が行なう環境活動のひとつにすぎない。小南の人たちは地域ぐるみで楽しみながら多様な環境活動を続けている。


高い自治意識

「うちの自治会費は高いんですよ。金額をいうと、みんなびっくりしますね」
 小南自治会の山本徹さんはいう。自治会費は一世帯あたり年間4万円。20年以上前からこの金額だ。周辺の自治会費が5千円程度であるのに比べると、8倍にもなる。しかし、小南地区の人々は地域の自治を守るために不可欠の支出と考えている。
 高い自治会費は自治意識の高さに比例する。野洲町は京阪神のベッドタウン化か進んでいる。しかし、小南地区はJR野洲駅から車で10分ぼどの場所にありながら、市街化調整区域に指定されているため宅地化の波が及ぶことはなく、いまも昔ながらの農村地帯が広がる。
「隣近所とのつきあいは親戚と変わらず、地域の結束が強く、自治意識も高いんです」と、山本博一さんは話す。
 小南自治会では、東西南北の4ブロックから自治会役員である協議員を2人ずつ選出する。その役割は慟きざかりの30代から50代が担う。
「どんな仕事をしていようと、昔からずっとこの年代で構成しています。仕事が忙しいから地域活動に参加しないというのは理由にはなりません」と、岡野勉さんが続ける。この慟きざかりの世代が、自治の歴史を受け継ぎながら、環境という視点を盛り込んだ地域活動を開始して5年を迎える。


地区ぐるみで環境活動

 小南自治会では早くからごみの資源回収など環境問題に取り組んでいた。その活動が本格化するのは、1999年。滋賀県の「淡海エコライフの郷モデル事業」の指定を受けたことに始まる。自治会では3年間の事業を進めるために、推進母体をつくることにした。こうして、公募に応じた8人の区民に、4人の自治会役員から成る「エコライフ愛郷会議」が発足。毎月第3土曜日に会議を開くことにし、活動を開始した。
 愛郷会議ではまず、ごみ処理やエネルギー消費の実態を把握するため、全戸へのアンケート調査を実施した。その結果を受けて、エネルギーを20%、ごみの排出量を20%削減する野心的な目標を立てる。目標の達成をめざし、全戸に温度計と買い物袋を配布。室内の温度管理によるエネルギー消費の抑制と、レジ袋
の削減を呼びかけた。


太陽光発電システムを設置

 小南地区には、自治会、青年会、婦人会、成友会、自治消防団、女性消防団、子ども会などのさまざまな組織があり、それぞれが活発な活動を続けている。その活動の場となるのが、「愛郷」の碑が建つ小南集落センターだ。しかし、活動が活発になるほど電力消費が増すことが、エネルギーの削減に取り組む自治会の課題として浮上した。そこで、愛郷会議は太陽光発電システムの設置を提案した。
「集落センターで昼間に消費する電力だけでも太陽光発電でまかない、自治活動にともなう環境負荷を軽減できないかと考えたんです」と、山本さんは話す。
 太陽光発電システムの価格は量産効果により低下しているとはいえ、いまだに高額な初期投資が普及の障害になっている。愛郷会議では、経済産業者が新エネルギー財団を通して交付している補助金や、「淡海エコライフの郷モデル事業」の補助金を活用することにした。
 滋賀県内には、市民が資金を出し合って太陽光発電システムを設置する市民共同発電所が多く、野洲町内にも1か所ある。だが、もともと自然エネルギーの普及を願う市民の有志が設置する市民共同発電所とは異なり、多様な環境意識をもつ地域住民から或る自治会が設置した例はない。愛郷会議のメンバーは自治会総
会や組長会での説明をくり返した。


困難を超えて

 区民の合意を得たところ、思わぬ難題が浮上した。「補助金申請にはシステムを設置する建物の登記簿謄本が必要でしたが、任意団体である自治会名義での登記はしていなかったんです。しかし、太陽光発電システムを設置するためだけに法人化するには区民の賛同が必要です。そこで、登記簿謄本に代わる書類として町の証明書をあてることにしました」と、小筒袖太郎さんは振り返る。
 この手続きに時間がかかったため、この年前期の補助金申請の締め切りは過ぎてしまった。やむなく後期の補助枠に申請をすることにしたものの、申請数が多いため補助率が減額され、補助金は半額になった。自治会では、業者の競争入札によって設置費用を節減し、なんとか自治会費でまかなえるようにした。
 2000年10月、集落センターに5.22キロワットの太陽光発電システムが設置された。集落センターの玄関に設置されたモニターパネルには、発電量と電力会社への売電量が表示される。使用する電力量が増えるほど売電量が減るのを見た区民は、電気ポットや空調設備の使用を控えるようになり、太陽光発電の導入は省エネにもつながっている。翌年には、集落センターの駐車場に二基、児童公園に一基のソーラーフットライトを設置した。


生ごみの減量に挑戦

 一方、エネルギーと同様、20%の削減をめざすごみの排出量については、リデュース(減らす)、リユース(再利用)、リサイクル、リフューズ(いらないものは買わない)という目標を立てた。ごみを輸送し、焼却処理するために多くのエネルギーが消費されている。この環境負荷を軽減するために、生ごみの減量に取り組むことにした。
 生ごみを処理するには、電気式の生ごみ処理器を利用する方法もある。しかし、ごみとエネルギーの両方の削減をめざす小南地区では、ごみ処理のためにエネルギー消費量を増やすことに疑問の声が上がった。そこで着目したのがEM菌という微生物による堆肥化だった。兼業農家の多い小南地区には堆肥を還元できる農地や庭があることも魅力だった。
 メンバーはこの方法で生ごみを活用している福井県武生市大虫地区に研修に行き、愛郷会議の委員から試験的に取り組み、モニターを募って普及を図ることにした。現在、38世帯にまで増えた会員は「EMボカシ愛郷クラブ」をつくり、集落センターの駐車場で行なう隔月でのボカシづくりが定着している。
 モデル事業の終了とともに、エコライフ愛郷会議は「エコライフ推進会議」に名称を変え、いまも活動を続けている。メンバーは、「地球環境問題を解決するために自治会としてできることを小南モデルとして発展させ、野洲町だけでなく滋賀県全域のモデルになるようにしたい」と話し合っている。