「まち むら」85号掲載
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若い発想で新しい地域を!
長野県・上田市 学生地域くらし創り考房こみっと
 JR長野新幹線上田駅で、上田鉄道別所線のワンマン電車に乗り換え、別所温泉行きに乗車。山に囲まれた田園風景の中を20分程走ると「下之郷駅」に到着した。駅からほど近い場所にある長福寺の境内の中に、ネットワークハウス「縁舎(えんしゃ)」がある。木造平屋の建物の中に入ると、床の真新しいカラマツ材が目を引く。設置されたばかりの厨房から淹れたてのコーヒーの香りが漂っている。まさに、街の喫茶室の趣がある。
 この「縁舎」は、地元の長野大学の学生たちが中心になって結成した「学生地域くらし創り考房(こうぼう)こみっと」の、地域の交流拠点として、昨年10月開設したばかりである。


「学生」と「地域」を結ぶ

 昨年4月、地域に根ざした文化や生活を学び、新たな地域づくり運動を興したいと、長野大学の研究生や学部学生19人が、「学生地域くらし創り考房こみっと」を発足。愛称の「こみっと」は、関わりをもつことを意味するCOMMITを、平仮名表記にしたもの。大学で学んでいくなかで、地域から学ぶことの大切さを知り、そこで学んだことを実践していきたいという共通の想いを抱いた数名の学生たちが発起人となり、非営利の地域づくりグループを結成。その後メンバーの輪を広げて来た。この会は、長野大学から始まったが、大学のサークルではない。会員の資格として、「正会員は35歳以下の者。又は高等教育機関に在籍の者」としており、地域の若い人々を対象としている。現在、「地域づくり」「地域通貨」「食・喫茶」「循環型農業」「環境学習」「男女共同参画」といった六つのプロジェクトを立ち上げ、そのプロジェクトごとに企画を立て、自立した事業を運営していこうとしている。


放置されていた建物を改修して「縁舎」が完成

 新たな地域づくりの拠点「縁舎」は、かつて保育園として使用され、放置されていた100平方メートル余りの建物を改修して創り上げたものだ。場所を探しているのを知った長福寺住職の村越深典(30)さんが、学生たちの思いに賛同して、無償提供をした。村越住職は、「この場所で絵の個展などを開催したこともあり、文化的な拠点にしたいと思っていたんです。学生たちにとって、社会に出る勉強の場になればと、喜んでお貸ししたんです」と、いきさつを語っている。メンバーは、市や県から合わせて230万円の補助を受けて、半年がかりで改装。荒れた建物の改修作業は、大工、電気・看板屋さんほかさまざまな専門職の人たちや、地元で地域通貨を進めている仲間たちなど多くの支援を得て進められた。学生たちは、自ら天井の壁を塗り、床や腰板には、卒業生の大工を通じて仕入れた地元産のカラマツ材を張った。屋内には、リサイクルショップで買った冷蔵庫や、大学の先生たちが提供してくれた椅子、ロッカー、食器などを運び込んだ。プロジェクトの一つ「食・喫茶」へのこだわりから、調理室も備え付けた。掃除の仕方まで教えたという村越住職は、「仕上げ間際の1週間、学生たちの働きぶりには感動させられた」と言う。
 共同代表で事務局長を務める長野大学研究生の竹内充(23)さんは、「縁舎」設置の理由をこう述べている。「地域と交流するためには、学内から出て行く必要があると言ったからです。『縁舎』にコーヒーを飲みに来た人たちが、気軽に参加出来る講座やイベントを開き、人が集まって楽しく和める場所にしたいと思っています」と。
 「縁舎」がオープンした10月19日。地元の和願太鼓の演奏や大学吹奏楽部のミニコンサートが開かれたほか、縁舎内の厨房で有機無農薬野菜を使った食事が振る舞われるなど、学生と地域の住民が交流した。会場には、老人会の人たちも多数参加。その数は200人にもおよんだ、という。


新たな地域づくりの実践道場

 「縁舎」では、毎月、さまざまな討論会や会合が開かれている。そうした活動の記録が、地元紙に掲載されている。昨年の11月14日に開かれた「みんなで学ぼう!有機堆肥」と題した勉強会には、有機農法を実践する人たちや学生など30人余りが参加(主催「学生地域くらし創り考房こみっと」・「循環型農業プロジェクト」)。ちなみに、このプロジェクトは、長野大学の近くに畑を借りて活動している。勉強会のユニークな点は、この日の講師、NPO法人有機農産物・堆肥化推進協会理事の宮澤さんの講義に加えて、宮澤さん自作の野菜を使った料理の試食会を行なっていること。参加した人たちは、玄米とあずきのおにぎり、大根といためもの、粉ふきいもなど、素材の味をたんのうした。地域で収穫した有機農産物を使った料理を味わいながら、地域の問題を語り合う、「縁舎」は、コミュニティレストランとしての役割も担っているのだ。
 12月6日に開催された、上田市内で環境保全や環境教育を実践している市民による討論会「上田の自然を次世代に」には、地元住民ら20人余りが参加して、身近な自然の魅力を語り合った(主催「東山プロジェクト実行委員会」)。討論では、自然林の調査や保全をしている「染屋の森の会」代表の川上さんが、「歩いて行ける森」として市街地東側の段丘林の植生を説明。「森の整備で都市熱が和らげられる」と指摘した。里山再生は、「学生地域くらし創り考房こみっと」が昨年度から力を注いでいるプロジェクトの一つである。
 上田市では、昨年度から学生参加の街づくりを本格化させている。その一環として、母袋市長が昨年末、「縁舎」で「学生夢講座」を実施。学生たち30人余りが参加した。市長は、中心市街地の活性化策などに、学生たちのユニークなアイデアを取り入れようと大いに期待を寄せている。こうした討論会に加え、毎週月曜日には、地域のお母さんたちで作る「縁舎ママーズ」が子育てのための学習会を開いている。この学習会の中心メンバーで「学生地域くらし創り考房こみっと」の助言者としてともに活動する、長野大学の古田睦美助教授は、地元紙の取材のなかで、こうした活動を「新たな地域づくりの実践道場」と語っている。


3000人の学生のエネルギー

 竹内さんは、「若い発想で新しい地域を作りたいと考えて会を発足させた。そして上田市にいる3000人以上の学生が地域と結びつけば、とても大きなエネルギーになるし、僕たちも地域からたくさんのことを学べる。将来はNPO法人にして、もっと活動の幅を広げていきたい」と力強く語っている。