「まち むら」85号掲載
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地域を知る第一歩若手中心にコミュニティマップ作製
青森県・下田町 古間木山連合町内会
 青森県下田町の北部4町内会で構成する古間木山(ふるまぎやま)連合町内会(福原仁一会長)は昨年、自分たちが住んでいる地域を知るために、連合町内会内の町民バス停留所や交通の危険箇所、下水道やごみ収集場、街路灯や一人暮らし高齢者世帯などの情報を記した「コミュニティマップ」を作製した。
 活動の中心を担ったのは20代の若者たち。戸惑いの中にも、自分の足で地域を歩くうちに、今まで知らなかった人に出会い、ものを再発見できた貴重な体験となった。


コミュニティの希薄化

 下田町は青森県の東南部に位置する。南は東北新幹線開業で活気づく八戸市、北は米軍基地や航空自衛隊を有する三沢市に隣接し、都市部のベッドタウンとして、県内でも稀な人口増加を続けている。
 今年1月1日現在の人口は1万4118人。1万人の大台に到達した平成4年以降、順調に推移。とくに増加が著しいのが町北部の古間木山地区で、都市計画の網が掛かっていないことも背景に近年、急激に宅地化か進み、三沢市の米軍基地や空自関係者など県外出身の転入者も多い。コミュニティが希薄化する中、住民による地域づくりの在り方を模索し続けているのが古間木山連合町内会だ。
 古間木山連合町内会は、町北部の住吉町、緑ヶ丘、若葉町、青葉町で構成する。28ある町内会のうちの4町内会で、1335世帯、人口3510人(いずれも昨年12月現在)の大所帯。昭和55年から20年間で人口はおよそ6倍に増えた。


地域計画づくりへ

 昭和58年、住吉町、緑ヶ丘、若葉町(青葉町は平成12年若葉町から分離)は、それぞれ盆踊り大会をしたいと思いながら、町内会単独では開催できなかった。福原会長の音頭で「古間木山地区を明るく住み良くする会」を発足させ、待望の盆踊り大会を開催。この盆踊り大会は昨夏20回目を迎えた。
 同会は昭和63年、古間木山連合町内会に改組。以降、連合町内会はまちづくり勉強会や講演会、クリーン作戦や町長と語る会などのほか、一昨年には市町村合併シンポジウム、昨年1月には町長選挙に際して立候補予定者による公開討論会を企画するなど、精力的な活動を展開している。スローガンは「私達の街私達の手で」。
 その連合町内会が昨年3月、「地域計画づくり」に着手した。事務局次長の佐藤啓二さんは「連合町内会活動のマンネリ化の解消もねらいの一つにはあった」と語る。
 連合町内会にあっても、活動に参加する人間が限られてきたり、運動会や盆踊りなどの活動メニューが定番化した。5年後、10年後の地域を自分たちがどう形作っていくか、具体的な目標を掲げれば多くの人を巻き込んで活動が活発化するのではないかとの発想から、昨年2月に「地域計画づくり委員会」を新設。中心となる委員会の顔ぶれは、団体職員下田和樹(25)さんを筆頭に、役場職員若月淳(25)さん、会社員松林拓巳(25)さん、会社員工藤純恵(21)さんと4人の若手だった。


若者の苦悩

 昨年3月25日、地域計画づくりの第1回全体会が開かれた。参集メンバーは委員会とサポートする佐藤さん、福原連合町内会長のほか、各単位町内会から選出した計28人。アドバイザーには福田昭良八戸大学助教授を招いた。
 福原会長は全体会の冒頭、「将来の古間木山を自分たちの手でどうするか。考えるだけでなく行動しよう。何をやるのかは委員会の若手4人に任せた」とあいさつした。「皆さんはここに骨を埋める人。一人でも多くの人たちが、おはよう、こんにちはとあいさつし合える仲間づくりをしたい。地域への熱い気持ちを持って意見をいただき、この若者たちを育ててほしい」とも付け加えた。
 みそは、参集メンバーの半数は、地域活動へのかかわりが少なかった人をあえて選出したこと。
 委員会代表の下田さんは、地域計画づくりの前提として、まずは自分たちの住む地域の現状を把握するため、どこに何があるのかを調べて地図にしたい。その上で、地域のため何ができるかを考えていきたい――とマップづくりを提案した。
 中には「地域計画と言われても漠然としすぎて分からない」「マップづくりに執着しているようだが何の意味があるのか」など否定的な意見も出され、順調な滑り出しとは言えなかった。返答に窮する委員会メンバーとのやり取りを聞いていた福原会長の表情は、こうした反発も予想していたかのように、含み笑い交じりだった。
 下田さんは「僕らも手探りの状態。提案を最初に跳ね返され、考えが伝わらないことで、どうすればいいんだろうと困った」と当時を振り返る。スタートから産みの苦しみを味わいながら、「まずやらせてください」との熱意でマップづくりは始まった。


地域づくりの足掛かり

 メンバーは4月以降、地区を自分たちで歩いてみた。4町内会をグループに分かれて歩き、情報を持ち寄る。回数を重ねるごとに、歩道や側溝、カーブミラー、ごみ収集場がどこにあるのか、雨が降ったらどこに水がたまるのか、交通の危険箇所はどこなのか、より具体的にチェックするようになる。時にはバーベキューを楽しみ、夜間に歩いた後は酒を酌み交わして親交も深めた。
 11月には手作りマップが完成し、連合町内会会員にお披露目された。自分たちの足で集めた生活にかかわる情報を住宅地図に落とした計5枚のマップは、地域の現在の生(なま)の姿を表したという意味をこめて、「古間木山物語 生 2003年の現状」と命名。福原会長は「古間木山はいい意味でも悪い意味でもよそものが集まっている場所。ならばいいものの集まりにしたい。マップはその足掛かりで、生かすも殺すも住民の皆さん次第。一番の収穫は若い人が地域に目を向けてくれたことだ」と総括した。
 アドバイザーの福田助教授は、今回の取り組みを「地域の若者を育てる重要なプロジェクト」と位置づけた。「マップは現状を視覚化することで、見た地域の人は一つの課題を地域共通の課題と認識できる。人づくり、担い手育成という取り組みも意義深い」と評価する。
 下田さんは「地域のことも見えたし人との出会いもあった。苦労も同年代の仲間と分かち合えたし、今までより少しだけ踏み込んで町内会活動ができた」と語る。マップが完成した後、この活動に興味を持った30代ぐらいの男性から「自分も仲間に入れてほしい」と話があったという。下田さんは「これがうれしかったですね」と笑った。
 連合町内会はこのマップを、地域の小中学校や児童館、公民館などに配布した。これから5年後、10年後の地域の在り方を創造する地域計画づくりが始まる。マップ作製の経験と意義がどう生かされていくのか、その成果が期待される。