「まち むら」88号掲載
ル ポ

団地ぐるみで取り組む「孤独死ゼロ作戦」
千葉県松戸市・常盤平団地自治会/常盤平団地地区社会福祉協議会
 千葉県松戸市の大規模団地「常盤平団地」が、団地ぐるみで取り組む「孤独死ゼロ作戦」が注目を集めている。
 全国的に高齢化と核家族化が進み、一人で生活するお年寄りが増え続けている。このため、誰にも看取られずに自宅で死亡し、遺体が長期間放置されて悲惨な姿で発見されるという「孤独死」の問題が近年、クローズアップされてきた。44年前に建てられた同団地も例外ではない。危機感を募らせた常盤平団地自治会(中沢卓実会長、5359世帯)と常盤平団地地区社会福社協議会(団地社協、川上親秀会長) は、3年半前の“ある事件”を契機に、全国的にも例をみない地域ぐるみでの「孤独死対策」に乗り出した。団地住民による先進的な取り組みを紹介する。


日本初の大規模団地 少子高齢化で人口減が進行

 10月下旬のある日。団地社協主催の「思いやりホームヘルプ事業見学会」が、五香消防署(松戸市五香西)で開かれ、団地住民ら20人が参加した。
 そのうちの一人、金山泰子さん(72)は、ほぼ毎回、見学会に参加している。「毎回楽しみにしている。勉強にもなる」と笑顔で話す。民生委員の坂井豊さん(74)は見学会の意義について、「参加することで楽しみを共有し、健康にもよい。多くの仲間とつながり合える」と語る。
 別の日、団地社協副会長で民生委員の大嶋愛子さん(72)は、益岡マサ子さん(79)宅を訪問した。益岡さんは16年前から同団地で一人で暮らしている。
 益岡さんは「皆さんよくやって下さっている。何の心配もせずに暮らしていける」と、同団地の取り組みに絶対的な信頼を寄せる。大嶋さんも「益岡さんはよく出歩くし、いろいろなイベントにも参加する。本当にお元気」と応じた。
 このように、両団地の住民は高齢者福祉への取り組みに積極的に関わっている。
 両団地は日本初の大規模団地として、高度成長期の昭和35年に入居が始まった。当時、青壮年世代が多く入居、最盛期(昭和40年代後半)には団地人□は2万人近くにも膨れ上がった。しかし、近年少子高齢化が進むとともに人□も9000人を割り込み、現在約5400世帯のうち、65歳以上の高齢者は約2200人で高齢化率(25.02%)は松戸市全体の倍近い。一人暮らしの高齢者は約570人にのばる。
 元々、両団地の住民は福祉に対する関心が高く、8年前に市内のトップをきって「常盤平団地地区祉会福祉協議会」を組織し、福祉施策を団地自治会と“二人三脚”で進めてきた実績があった。
 このような環境の中で、“事件”は平成13年と14年に続けて起こった。


たて続けに起きた“事件” 立ち上がる団地住民

 平成13年春、一人暮らしだった50歳代後半の男性の遺体が自室の台所で発見された。すでに死後3年が経過し、白骨化していた。男性は家賃や光熱費を□座引き落としで支払っていたが、残高が底をついて支払いが滞った。両団地を管理する都市基盤整備公団(現都市再生機構)が再三、督促状を送付したが音沙汰がなく、公団職員が部屋を訪問して遺体を発見した。翌年春にも「異臭がする」「ガラスにハエがたくさん付いている」との通報があり、調べたところ、同年代の男性がこたつの中で死亡しているのが見つかった。死後4か月だった。妻子と別居しており、肩囲にはカップラーメンや酒のカップが散乱していた。
 “事件”が続いたことに、団地自治会と団地社協は危機意識を高めた。「孤独死の状況は悲惨。何とか食い止めないといけない」(中沢会長)と、本格的な対策に乗り出すことにした。
 まず、孤独死の問題提起と防止の啓発活動を開始。この年の6月、同団地内で「シンポジウム」を開催。昨年6月にも森英介・厚生労働副大臣(当時)や大震災後の仮設・復興住宅での孤独死問題に取り組んでいる神戸市の担当職員らを招いて開いた。さらに、行政やマスコミなど団地外にも孤独死問題を積極的に啓発している。
 身近に忍び寄ってくる孤独死に、団地住民が積極的に立ち向かい始めた。


次々に打ち出す新施策 全市的対応担う拠点設置

 団地自治会と団地社協は、同団地内で具体的な取り組みを始めた。@異常を感じた時、速やかに団地自治会や団地社協に通報する「緊急時通報システム」の構築、A新聞配達時に新聞がたまるなどの異常時に通報する新聞販売店との協定締結、B異常時のドア開錠を昼夜を問わず優先して行なうための鍵専門店との協定締結―など。「孤独死ゼロ作戦」をキャッチフレーズに、住民自身も「何かおかしなことがあったらすぐに通報しよう」という機運が高まっている。
 今年度は新たに「あんしん登録力−ド」制度をスタートさせた。孤独死だけではなく、事件や事故、災害といった緊急時に速やかに対応できるよう、力−ドに緊急連絡先やかかりつけの医療機関を記入しておく。11月5日現在ですでに281人が登録を済ませ、日々増加している。
 松戸市も同団地の取り組みには目を見張り、全市的な孤独死対策を行う「まつど孤独死予防センター」を昨年7月、団地社協事務局がある常盤平市民センターに設置した。市全体でも孤独死が90人(平成15年度)と、
すでに孤独死は同団地だけの問題ではなくなってきている。予防センターには団地社協関係者が常駐し、市内全域から相談受け付けや対策の検討など、孤独死問題に総合的に取り組んでいる。


新たな脅威「若年孤独死」 住民同士のつながりで防止

 全国的にも先進的な取り組みを行なっている同団地。しかし「近所付き合いをしない」「プライバシーを重視する」といった最近の生活形態が、対策推進のための障害になっている側面は否定できない。
 このような風潮が広がっているにもかかわらず、中沢会長は「孤独死の課題は『地域ぐるみ福祉』の重要なテーマ」と語り、地域(団地)全体による問題解決に自信を示す。その一環として、住民同士の交流を活発化させる努力を行なっている。例えば、最初に紹介した住民同士の支え合いによる「思いやりホームヘルプ事業」や地域福祉・ボランティア活動への参加、「いきいき大学講座」「敬老の集い」「福祉フェア」「地区市民運動会」などのイベント開催を通じて、一人暮らしの高齢者の「とじこもり」の防止と配偶者を亡くした後の「立ち直り」ヘの助力に力を入れている。
 最近、行政による高齢者福祉施策の対象外になる50歳代、60歳代前半でも孤独死になるケースが多いことが分かってきた。松戸市の調査でも、孤独死全体の3割以上がこれら“若年層”によるもので、団地社協では「若年孤独死」と定義し、警戒を強めている。
 孤独死防止は住民同士の「横のつながり」が最も重要だ。「最強の自治会」(中沢会長)と自負する団地自治会と団地社協の「つながり」を重視した取り組みは、今後団地内だけではなく、松戸市、さらには全国に広がっていくだろう。