「まち むら」89号掲載
ル ポ

複式学級阻止活動をきっかけに広がる地域活動
兵庫県五色町・堺活性化委員会
職まであっせんして複式学級を阻止

 兵庫県の淡路島にある五色町の堺地区では、過疎化による児童の減少で、昭和33年の213人をピークに年々減少し、昭和45年に100人となり、昭和55年に63人。そして平成4年には、遂に49人までに減少した。
 平成3年に将来児童が減少すれば複式学級になり、学力の低下や児童の活力にも問題が出ることも予想されることから、地域の有志が立ち上がり「堺活性化委員会」という組織をつくって活動を開始した。
 小学校の児童を増やすには、町の外から児童を越境通学させるわけにはいかないので、児童を持つ家族が五色町に移住してくれなければならない。
 委員会は、町に永住型の町営住宅の建設を要望し、その用地は委員会で確保した。
 次に住宅を建設しても職がなければ永住できないので就職先の確保に乗り出したのである。周辺の企業に協力を求め、その熱意の甲斐があって職の確保に見通しをつけて、いよいよ淡路島の内外を問わず、適齢期の児童を持つ家族の誘致を積極的に行なったのである。
 堺活性化委員会は、さらに移住家族に「引越し祝い金」を出し、転作田を活用して野菜農園を無料貸し出しをするなどの優遇策をとった。地元民のこの情熱は内外に知られ、ついに平成5年度の第1期、第2期の分譲住宅を完売して小学校の児童は反転して増えることになった。
 平成17年1月、五色町ととなりの洲本市の合併話しが大詰めを迎えていた。五色町は人□11,500人余の町で、5つある地区で一番小さな堺地区の人□は1,174人。町民の約1割しか住んでいない小さな地域である。この地域の活性化の中心になっている堺活性化委員会は、複式学級阻止の活動で児童数49人から、ここ数年でも70人から80人で推移する小学校に回復したことで自信を得て、活動は年々活発になり地域を発展させている。


新旧住民の融和をはかる

 新旧住民の融和の場としても活用している地域内の堺八幡神社の秋の祭りも、毎年、新企画をプラスして参拝客を楽しませている。年々提灯の数が多くなる分だけ神社に向かう道が明るくなり、神輿の登場、和太鼓の演奏、獅子舞、淡路名物のだんじリ唄など、ゆかりのものが演じられている。祭りは「幸せ餅」と名付けられた夜の餅まきで最高潮に達する。地域外からの参加者も多く、その熱気は境内を包み、境内の感動が堺活性化委員会の糧になっている。祭りに集まる顔が美しいのは、提灯のせいばかりではあるまい。
 堺活性化委員会の活動に停滞はなく、進化は年々続いていた。平成15年には阪神タイガースの選手が提灯にサインをして興を添えてくれたし、シーズンオフには、少年野球の指導までしてくれているのだから凄い人脈を待っているようだ。
 しかし、これから動くのは、神社の右端にある淡路島十三仏霊場の1つ「三寶院」というお寺の復興活動のようである。
 ご住職は温厚で内に叡智を感じる樹下悛澄さん。10年以上も前から檀家に声をかけられ「真言友の会」をつくられて、毎月1回、真
言宗の教えを1年間勉強する会を続けてこられた。
 その勉強会が10作目を迎えた昨年の7月に初めて同窓会?を開かれだ。その席に堺活性化委員会事務局長の藤野康さんも出席されていて、お寺と地域の人々を、もっと親しみのある関係にしたいと提案された。1つの案として、先祖供養の提灯を本堂に献燈するというもので、側面的にお寺の経営基盤を強化する考えもあったようである。
 参加されていた50数人の方々は、直ちに賛同されて三寶院の本堂に提灯を献燈することで具体的に行動を起こしたというから早い。
 昨年の夏は、早速本堂に20〜30個の提灯が灯り、今年の1月末には提灯が146個に増えていたので驚いた。毎朝ご住職が心を込めて供養されていることを思えば、今後ますます提灯は増えるであろうし、檀家以外の申込みも多くなるのではないだろうか。
 提灯の正面には戒名が書かれ、裏側に施主名があった。それが本堂の天井から吊るされているのは壮観だったが、藤野さんのお話では、夜、本堂の明かりが消されてご仏壇のご灯明と提灯の明かりだけになると、ますます美しく、さらに庭に月の明かりが射すとき、幽玄の世界になるということであった。
 三寶院の活動も2年目の今年は、さらに前進する。お寺で檀家の食事会を年2回行ない、年末には「すす払い」も檀家で行なうことになりそうだ。淡路島には約80の御詠歌の会があるというが、その中から何組かの会を三寶院にお招きして、御詠歌の発表会を開催しようという企画も進んでいるようであった。「三寶院に新しい歴史をつくる」が合言葉のようで、今後の活動が楽しみである。


組織は人につきる

 平成17年の今年から「桜と鯉のぼりのスケッチ物語」という事業にも看手する。現在、地域に桜の木が育っているが、桜並木にぼんぼり提灯を並べ、その上に鯉のぼりを100匹泳がせようというものである。目的は「地区住民の参画と協働の意識の高揚を図る」とあるが、意図するところは、早川という地元の川の清掃をリンクさせているところが、いかにも堺活性化委員会らしい素故な発想である。すでに100メートルのワイヤーを張る支柱工事が始まっていて、各戸にお役目の終わった鯉のぼりのご寄付をお願いしていた。“光と元気発信、にぎやか大好きか”をキャッチフレーズにして息の長い、しかも多彩な地域活動を続けている堺活性化委員会。
 その顔とも言える事務局長の藤野康さんのお話を伺っていると“組織とは人につきる”ということが深く理解できる。「類は友を呼ぶ」という言葉もあるが、藤野さんを見ていると、人が人を呼び、人の意気を感じて人が動き、人の情熱が人に伝播し、人の喜びが自分の喜びにつながっていることが分かる。
 ここで「堺活性化委員会」が、地域を活性化させながら、自らを活性化させているが、この組織を私なりに分析してみたい。
 @活動の中心に人望がり企画力と調整力に優れた人がいる。A長い地域の活性化活動の実績が全国的に認められていることが地域住民の誇りになっている。その功績を地域住民が認め、地域住民の堺活性化委員会に対する厚い信頼が育っている。B活動の根幹に子どもたちを大切に育てる心が毅然としてある。その精神を地域住民は支持している。C活動に意外性、非日常性がある。企画が愉しい。D堺活性化委員会に適材適所の人材が揃い、広く役割分担がなされている。ボランティア参加者も多く対応が素早い。E兼業農家が多いが活動が立派なレクリエーション活動になっている。ストレス解消や心身の疸し、元気の源になっている。F堺活性化委員会の活動に停滞がなく、たえず前進している航跡が明解に見える。活動がマンネリ化しないのが魅力的である。
 活動を次の世代にバトンタッチする考えを明確に持っている組織を久しぶりにみて、清々しい印象をもって五色町をあとにした。