「まち むら」95号掲載
ル ポ

ふれあいと、きずなの交流ステーション
山口県岩国市・特定非営利活動法人ゆうふれあいセンター
 今年3月20日に岩国市と合併した由宇町は、瀬戸内海に面したのどかな町である。JR由宇駅から歩いて5分、商店街のレンガの道をたどっていくと、黄色い「まちの駅」の大きな看板が目に飛び込んできた。
 「まちの駅」とは、無料で休憩できるまちの案内所。公共施設から個人商店まで、官民問わず、既存の空間を利用し、地域情報を提供し、交流を促進させる場であり、まちづくりの拠点でもある。全国で、現在取り組み中の「まちの駅」は793か所、そのうち常設の駅は413か所ある。


「リタイヤしたら社会貢献します」と宣言

 ここは、NPO法人ゆうふれあいセンターが運営している、全国でも珍しい無償ボランティアによる「まちの駅」である。中に入ると、すぐに、ちっちゃい女の子のかわいらしい洋服が眼を引いた。その向こうの棚には、文庫本や、竹製品、小さな掛け軸が並んでいる。正面の大型のショーケースの中には、色とりどりの布でつくったぞうりや、バッグが並ぶ。なんだか楽しいお店だ。「いらっしゃい!」奥のテーブルから、理事長の鷹野茂作さんが声をかけてくれた。
 玖珂郡由宇町の頃のこと。商工会の中心商店街活性化事業で、平成13年7月21日「街粋(まちいき)サロン」がスタートした。もとは薬屋さんだったという、間口三間、奥行き四間の空き店舗を利用して、情報提供、ふれあい交流の場をつくった。ボランティアメンバーは8名。そのメンバーを集めたのが、鷹野さんだった。実は、鷹野さんはそれまで一度もボランティアをした経験はなかった。何か鹿野さんを駆り立てたのか?商工会から声をかけられたということもあったが、その発端は、定年退職時に出した挨拶状だった。「リタイヤしたら社会貢献します!」そう決意を書いた手前、後に引けなかったという。つまり有言実行!何かやりたい時は、いろんな人に宣言すれば実現するという方法があるが、まさにそれだ。
 「街粋サロン」は、特産品、手作り品の販売や、町から買ってもらった新品のパソコン2台を使ってパソコン教室を開いた。そして、カラーの情報ペーパー、「街粋ニュース」を毎月発行した。これも鷹野さんが、パソコンを駆使して作ったもの。パソコンも、定年退職後独学で始めたという。サロンは、大好評のうちに翌年の3月に事業を終了した。しかし、このまま終わってはもったいない!と、町から補助金をもらって平成14年4月1日に「まちの駅」をスタートした。グループ名は「ゆうふれあいセンター」とした。メンバーは9名(男性5名、女性4名)。全員60歳以上だった。


地域の連帯のためにふれあい、きすなづくりの4つの事業

「地域の連帯のために、ふれあい、きずなのコミュニティをつくりたい」これが鷹野さんたち「ゆうふれあいセンター」のメンバーの想いである。しかし、「まちの駅」を続けるうちに不都合も出てきた。電話を引こうと思っても、任意の団体では難しい。会の財産ができても、会長個人のものということになってしまう。そこで、法人格の取得を決意した。書類の書き方など大変な苦労があったというが、平成16年4月1日にNPO法人の認証を受け、「NPO法人ゆうふれあいセンター」となった。現在、正会員は19名、利用会員は210名、賛助会員は18名である。
 正会員は、順番で当番をする「まちの駅」のスタッフ。利用会員は、年会費1,000円払って、「まちの駅」のいろいろな活動に参加している。現在「まちの駅」の事業は、「ふれあいサロン」、「チャレンジショップ」「ワンコイン カルチャー研究会」「介護事業」がある。
 「ふれあいサロン」は、ふらっと立ち寄って、お茶を飲みながらオシャベリを楽しんでもらうサロン。これは誰が来てもOK。「チャレンジショップ」は、利用会員から委託された、特産品や手作り品を展示即売する。売れたら、売り上げの一割を手数料としてもらっている。おもしろいのは、「ワンコイン カルチャー研究会」。利用会員が好きな研究会に入って、2時間たったの500円(ワンコイン)で楽しめる。現在、「米人さんの英会話研究会」、「パソコン研究会」、「創作布ぞうり研究会」、「着付け研究会」、新しくできた「ゆうゆう山の会」の5つの研究会がある。
 「米人さんの英会話研究会」は、開講して4年目、毎週火曜日と木曜日の2グループある人気の講座だ。先生は、ワシントン州出身の元海兵隊員の英会話研究会の先生は、この地に定住したMr.Auger。世界中いろんなところに住んだが、「日本ではだまされたことも、盗まれたこともない」と定住を決意。そして、山と海が美しい由宇に魅せられて「I LOVE 由宇!」と住民になった。持ち前のユーモアと人なつっこさで由宇人のハートをつかんで放さない名物先生だ。
 「パソコン研究会」は、主に高齢者と女性を対象に、月曜日から土曜日まで午後2時から開講している。講師は「まちの駅」のメンバーなので、希望者は好きな曜日の好きな時間に行って、週1日2時間利用できる。延べ会員が150人突破という超人気講座である。
 「創作布ぞうり研究会」は、副理事長の鈴木一朗さんが講師を務める講座。56人の会員が参加している。店内に陳列してある色とりどりの布ぞうりは、鈴木さんと研究会のメンバーの作品だ。履き心地抜群!「まちの駅」の人気商品である。
 昨年10月にスタートした「ゆうゆう山の会」は、最近中高年にブームの山登りの会である。なんと、女性会員たちの熱い思いで作られたという。毎月1回中国地方近辺の山に登る。現在、会員は30人以上。その中の9割が女性だと言うからびっくりである。団体で山登りというと、交通費が結構かかってしまう。しかし、近くの温泉施設の社長の好意で、バスを休館日に無料で貸してもらっているので、交通費も実費のみ!山登りをして、温泉に入って帰ってくるという、女性が大好きなメニューになっている。
 「介護支援事業」は、病院関係の仕事をしていた鷹野さんが、ケアマネージャーの資格を持っていることから、平成17年1月1日に介護支援事業所「ゆうふれあいセンター」を開設した。これは、由宇町が、岩国市と合併したことに関係がある。合併前の収支は、とんとんの状態であったが、合併後、行政からの補助金が約2割削減された。そのため、「介護支援事業」は収益を増やし、自立を目指すための事業だった。現在、年間の必要経費は160万円。それを、会費と研究会、ショップと介護支援事業の収入で賄っている状態である。介護支援事業の利用申し込みはまだまだ少ないが、収益全体の45%を占めている有力事業だ。


男性高齢者を外に出すために「生涯現役サロン」

 今後は、もっと高齢者福祉に力を入れたいという。「女性は、言わなくても外にでてくるが、男性高齢者はなかなか出てこず、とじこもりになってしまいます。なかなか難しい問題ですが、これをどうにかしたいんです」と事務局長の松本宏さん。「でも、もう、計画はたててあるんですよ」と笑う。それは、「生涯現役サロン」。マージャン、囲碁、将棋など、男性が好きなことを取り入れながら、介護予防、心身機能向上を目指す研究会だ。
 「まちの駅」はとっても居心地のいい場所。時間を忘れてずっとここにいたいと思ってしまった。今回、理事長の鷹野さん、副理事長の鈴木さん、事務局長の松本さんにお話を伺った。お3人とも60歳を超えているが、その目はきらきら輝き、笑顔は少年のようだった。英会話研究会の先生も会員の方たちも、笑顔、笑顔。楽しいところに人は集まる。「まちの駅」は、人と人をつなぐ大切な架け橋になっているようだ。