「私たちの生活学校」134号掲載
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長年環境問題に取り組んで、今子どもたちに伝える
石川県・根上町 根上町生活学校
 全国の小・中学校では平成14年度から学習指導要領の改訂により、「総合的な学習の時間」が設けられた。知識を教え込む授業ではなく、自ら課題を設けて行う学習や将来の生き方を考える学習が積極的にすすめられている。
 こうしたなか、各地の生活学校では、今までの活動経験を生かし、地域の小・中学校で総合学習の講師を務めるなどの事例が増えてきた。今回は、石川県の根上町生活学校の活動を紹介する。


 根上町は、金沢市の南方に位置し、南側には小松空港が隣接、高速道路、国道が整備され交通の便が良い。面積は13.57平方キロメートル、人口16,187人(平成14年3月31日現在)で、就業人口の半数近くは第2次産業に従事している。国道8号線沿いの工業地帯には、工場誘致条例にもとづき一部上場企業を含む30あまりの企業が立地し、勤労者世帯が多い。


生活学校らしい授業を

 根上町生活学校(代表・松本三保子さん)は、昭和45年に発足。以来30年以上にわたり、県生活学校連絡協議会の林よし枝会長のもと、過大包装の問題に始まり、ゴミの分別収集、生ごみの減量から環境ホルモンの影響など環境問題を中心に数々の地域課題に取り組んできた歴史ある生活学校だ。
 そこに目をつけたのが、根上町立浜小学校(全校児童730名)だ。浜小学校では、既に全国に先立ち3年前から学校独自で「総合的な学習の時間」をスタートさせていた。学年毎に、「福祉」、「環境」、「国際交流」などのテーマを決めて学習をすすめている。
 「環境」をテーマとした5年生のクラスでは、1学期は、川や海の汚れ、騒音、ゴミなど町の環境を子どもたち自身が調べ発表した。2学期は「地球の環境を守る人の話を聞こう」として、根上町生活学校のメンバーが招かれた。
 小学校側の要請は『廃油を使った石けんづくり』だったが、ここでも生活学校のメンバーは事前学習を欠かさない。廃油は生活排水の中でもっとも水を汚すと言われている。そこで、下水道課に足を運び話を聞き、下水処理場を訪ねて町の現状を学習した。
 その成果を踏まえ授業では、「下水道の役割」に始まり、醤油や味噌汁、てんぷら油などを流した場合、魚が住めるようになるにはどれくらいの量の水が必要なのかを一覧にし、なぜ油を流してはいけないのかを子どもたちにわかりやすく説明したのだ。子どもたちはみんな目を輝かせて聞き入っていた。
「私たちは、単なる石けんづくりの授業ではなく、環境美化の一環として、子どもたちに目で見て、耳で聞いて、そして実際に体験をするということを学んでほしいと強く願っている」と林会長。


子どもたちの感動は親にも

 実際の石けんづくりにあたっては、給食センターから廃油をもらい、苛性ソーダやその他必要な材料はすべて生活学校で調達し、授業に臨む。
 材料をかき混ぜる工程では「だるい」「疲れた」の声を上げる子どもたちを根気よく励まし続けるメンバーの姿があった。
 授業終了後、152名の子どもたち全員が感想を寄せている。

・はい油で石けんが作れるなんてすごいと思いました。生活学校のみなさんはそういうことを学んで私に教えてくれてうれしいです。みなさんは根上町の環境について考えてくれていたんだね。私も環境を守る人になりたいと思います。(5年女子)

・いろいろなものをリサイクルしているのはまことにすごいです。油をリサイクルして石けんを作るなんて、しかもよごれがよくおちて50円なんて安いです。こんどその石けんを見かけたらお母さんに「この石けん、よくよごれ落ちるよ」と言っときます。(5年男子)

 5年1組担任の伴卓也教諭は「地域の方々と一緒に勉強する体験学習は、通常の授業とは異なり、子どもたちにとっても新鮮で印象深いものとなった」と語る。
 生活学校では年に一度のリサイクルフェアーで廃油石けんを販売しているが、「子どもから聞いてますよ」といって購入してくださる方も多く、親子の対話のきっかけにもなっているようだ。


地域の期待をうけて

 今年2月、県生活科学センターの消費者のつどいにおいて、「学校と連携した地域活動の事例」として今回本稿で紹介した根上町の他羽咋市の生活学校も招かれた。当日は土曜日にも関わらず、消費者団体の他、金沢市、小松市、松任市、野々市町等の行政関係者らも集まった。
 事例発表後、金沢市の職員からは、過去に起きた産業廃棄物(車のバッテリー)埋め立て事件を例にあげ、「業者はごみを捨ててはいけないということまでは認識していたようだが、埋め立てたバッテリーがその後環境にどんな影響を及ぼすのかという点までは考えていなかった」。こうした点からも「小さい頃からこうした環境教育をすることはとても大切」として、生活学校の活動を高く評価した。
 現在、石川県内には生活学校が18校あり、ほとんどの生活学校が小・中学校の総合学習に関わっている。
 「私たちはこうした機会を積極的に利用して、生活学校運動で学んだことを地域の子どもたちに伝えていきたい」(松本さん)

 3学期の総合学習の時間、浜小学校の5年生は1年間の総まとめをした。「自分たちでできる環境を守ること」について、これまでの体験授業などをもとにリサイクル問題や世界の環境問題を子どもたち自身で考えた結果、次々とりっぱな発表が続いた。
 長年の生活学校運動で得た知識・経験は、今確実に根上町の子どもたちに受け継がれようとしている。