「私たちの生活学校」160号掲載
全体会

シンポジウム
21世紀の地域づくりを―新しい公共の担い手をめざして―
ひとりひとりの思いをつなぎ豊かな社会を

登壇者
矢 野 学さん(新潟県上越市市会議員・前安塚町町長)
山 根 誠さん(横浜市神奈川区親がめ会議代表・同区松見町第二町内会会長)
工 藤 隆 男さん(北海道安平町・安平マチおこし研究所)
金 山 冨士子さん(岐阜県生活学校連絡協議会会長・土岐市生活学校代表)
 岡 完 治さん(司会・財団法人あしたの日本を創る協会理事長)

司会 あしたの日本を創る協会では、21世紀地域活動ビジョン「ひとりひとりの思いをつなぎ豊かな社会を」という提案をいたしましたが、このシンポジウムでは、標題ともなっている思いをつくり、つなぐということをテーマに、討議を進めていきたい。具体的には現在の問題とこれからの問題に分け、前者では、活動してどんな問題に直面しているのか、その問題をどう乗り越えようとしているのか、あるいは乗り越えられたのかをお話しいただき、これからの問題については、今後、社会、地域社会がどう変化していくのか、さらにこの変化にどう対応していけばいいのかのアドバイスをいただきたい。
 最初に、住民活動、行政、企業という地域社会を構成する三つが、どのように思いをつなげていけばいいのかを念頭に置きながらご発言をお願いします。


「何とかしなければ」という思いをつないで

金山 今、私たちの活動は、中心市街地の活性化が柱になっています。この活動の出発点は、土岐市が合併に失敗して、「土岐市はどうなるの」というメンバーの声でした。特に「駅前の中心市街地を何とかしたい」という思いがありました。しかし、この問題に取り組むには生活学校だけでは力不足でした。そこで、関係する人たち、将来手を組みたい人たち、―商工会議所、商店街の役員たち―を招いて対話集会を開きました。そこでは、みなさんも何とかしなければと感じておられた。
 まず、街を歩いてみました。男性陣はこれまで車で通過するだけで、歩いたことがあまりありませんので、歩いたら、「疲れた。ノドが渇いた」「こんな所でつまずいた」という声が出てきました。こんなことは私たちとしては、とっくに感じていたのですが、言葉で伝えるより、体験していただというわけです。「ベンチが欲しいね」「お年寄りがお茶を飲めるといいね」と、いろんな意見が出されました。さらに、シンポジウムを開いたり、アンケートをし、生活学校の提案が多くの共感を得ていき、商工会議所も行政も「生活学校が言っていることは生活者の気持ちだ」と理解していただきました。これまで、どちらかというと生活学校の活動を、低く見ていたのですが、生活者を代弁していると感じてもらえました。そこから動き出しました。
 具体的には、空き店舗の家主と交渉して、「はいって小屋」という休憩所を作り、傍らでパソコン教室などを開いていますし、駐車場になっていた公用地を、イベント会場にし、朝市などもしています。私の思い、市民の思い、団体の思いが一致した時に活動が動くということをお伝えしたい。


団体の紹介マップをつくり、つながりに役立てる

工藤 今、町内の各種団体の紹介マップを作っています。小さな町でも100や200の住民団体があります。まちづくりだけでなく、教育関係、スポーツ、文化、ボランティア、福祉、青年団体を含めたマップをつくりました。マップを作ることによって他団体がどういう活動をしているのがわかるし、その団体に参加してみたい、あるいはお手伝いをいただきたい、という声を得て、広がっていくことになります。ただ、「あの団体には声をかけづらい」ということもありますから、私どもがコーディネートをしていければと思っています。また、地域通貨を発行し、高校生に、「店の前の除雪をしなさい。それで地域通貨をもらって、店で買物をしなさい」ということをしたり、あるいは道道の拡幅工事をする際に、お年寄りが多いから、道路の傍らに椅子を置いて、トイレを作ってと要望し、その一部が実行されています。こういう投げかけをすることで、つながりができ、町が良くなるのだと考えています。


潜在している思いを引き出す

山根 最初に、「思いをつなぐ」という言葉を聞いたとき文学青年のロマンチズムと思ったのですが、考えてみると、活動の原点としてかみしめるべきキーワードと納得しました。
 現在、神奈川区では、乳幼児をお持ちのお母さんの居場所づくりを、自治会館を中心に34か所で開設しています。7年前、この活動を始めるとき、アンケートで、「ホッとできる場所が欲しい」「相談できる人が欲しい」とお母さんたちの願いが見えてきたのですが、では、地域ではどうなのかと、町内会長、民生委員、地区センターなどを調査しました。しかし、乳幼児に対する支援活動はゼロでしたし、町の長老からは、「子育ては親の責任だろう。未熟な親が多すぎる」という保護者世代に対する痛烈な批判が返ってきました。そこで、「時代は違うんだ。核家族の中で育児がお母さんに集中して大変なのですよ」と説きながら、町でも支え合える環境を作ろうと働きかけていきました。そうすると「そんなことをする必要はない」と否定する声が、13%くらいになり、「そもそもうちの町には赤ちゃん、どれくらいいるのだい?」という声や「場所くらい作ってやってもいいよ」との声が大方でした。そこで、潜在していた思いを引き出し、お母さんたちの思いを受け止め、やれることをやってやろうではないかと、両方の思いを結び付けていったのです。
 この結び付ける役割を担ったのが親がめ会議です。町に根付いて活動をしている人たちが、関係機関、組織を説得し、地域のコンセンサスをつくって、開設していきました。つなぐためには、親がめ会議のようなコーディネーター役が必要だろうと思うのです。


人々が心を合わせて何かをすること―それが豊かさでは

矢野 これまで地域活動は、行政と密接な関係にあり、おんぶに抱っこの面が多かったと思います。しかし、行政の財政状況の悪化や合併によって行政が市民から遠くなる中で、その地域社会、活動を誰が支えるのかを一人ひとりが考えなければならない時です。新潟県は中越地震で打ちひしがれた時がありました。しかし、ここで支え合ってくれたのはボランティアの人たちや町内会長です。町内会長がみんなの心をまとめてくれました。自らきちっとした地域をつくろうという意志が大事だと思います。
 それから、「豊かさとは何か」を考えなければならないと思います。豊かな心を持つためには―みなさん、今の個人主義的な風潮とかで悩んでいらっしゃると思いますが―1人ではなくて2人の方が、さらに10人が心を合わせて何かをすることが、それが豊かさだと思うのです。この豊かさとか楽しさということが置き去りにされますと思いでつながらない。「私だけが苦労している」ということになってしまう。


「みんなが変わらなければ」ではなく「私自身が変わる」

山根 一方で行財政のひっ迫があり、一方で生活者のニーズが多様化し、行政サービスが届かないところが生まれてきているという現実があります。行政サービスを補完していくための新しい役割が要求されているという言い方もできます。
 しかし、そういう受身的な発想だと、やらされ感が伴いがちです。逆転の発想で、「新しい時代が来て、地域から発信して、思いや願いを実現していけるぞ、行政にこういう協力をさせるのだ」と自分たちの主体性を主張している町内会もあります。
 私たちは後者で頑張っています。「私たちの思いを実現させるいい機会なのだ」「補助金がなければできないというのはやめよう」「自分たちでできることは自分たちでやろう」を基本にしながら、行政との協働を考えていくという時代に入っていると考えています。

矢野 その通りで、変わらなければならないのは住民だけでなく、行政、政治家もそうなのです。「みなさん」が変わればではなくて、「私自身」が変わらなければいけない。例えば、公務員。どちらかというと地域活動が苦手なわけです。しかし行政の仕事は、地域活動から始めなければならない。福祉も、道路を造るにも、みなさんの意見を聞かなければならないのに、これをしてこなかったことを反省すべきです。その時にムカデ競争ではなく、二人三脚で、行政と地域活動が同じ立場で肩を組んで前へ進む。これが大事です。
金山 自治会ってすごい力を持っています。議員よりも強い。私の市では自治会長が年々変わります。新しい自治会長を1年かけ、地域活動はこういうものだと説得して、わかった頃にもう次の年なのです。ですが、選挙が近づくと議員は自治会長の顔色をうかがう。しかし、私たちは票を持っていますから一番強い。「いや違う」と言えるのが私たちで、生活者がこれから力を持つ時代かなと期待しています。


目先を変えると広がる活動の輪

工藤 川の清掃活動を10年ほどしているのですが、最初、川が汚れていることを大人たちは、あまり気にしていませんでした。そこで、子どもも含め、アンケートをとりました。町内会の関係ではそんなに回答は戻ってこなかったのですけれども、小・中・高校生からは100%近い回答が寄せられ、「川をきれいにしてほしい」ということでした。将来を担う子どもたちの要望に応えるため、川の清掃、浄化活動を始めました。いろんな方に参加していただいていますが、一人ひとりに、酸素量の検査をしてもらっています。みんなが、川の状況を知ることで、参加する意義を理解してもらえると考えてのことです。
 また、10年もしていると、マンネリ化していきますので、目先を変える必要があると思い、川の浄化のために炭を使うことを始めました。炭を買ったら高いので、間伐材を利用して炭をつくりました。それを川に投入すると目に見えてきれいになります。この中では、炭焼きに熱中するひとも出てき、活動の幅が広がっていっています。

司会 地域には、いろんな資源が眠っていますけれども、その一つが町内会だと最近言われるようになりました。町内会との関係についてはいかがでしょうか。

山根 神奈川区には、単一町内会が120ほどあります。私も町内会長になって17年目ですが、私以上に長い、20年、30年の方が一杯いらっしゃる。その長老の鶴の一声みたいな感じで、議論がなされないまま物事が決定される面が結構あります。こういう雰囲気だと若い世代が町内会の役員に入ってきません。子育て支援の活動では、若いお母さんたちが町内会館に入ってくる。民生委員や町内会役員や町の人がいて、お世話をしてくれる。子どもをおばあちゃんに預けて、ホッとできる、民生委員や町の人にしてみれば孫のような年代の赤ちゃんを抱っこできる、そこに交流が始まるわけです。スーパーで会って、「昨日はどうも」というあいさつが増え、顔見知りの関係も増えていきます。そうすると、町の盆踊りなどの行事にも若い世代が手伝いをしてくれる。若いお母さんたちの子育て支援をすることを通して交流が活発になってきました。


合併により高まる住民自治の気運

矢野 町内会は、自治をつくる、住む人の幸せをつくるという意味で大事な存在だと思います。私は、自治会と一緒に歩みましょうという姿勢でやってきました。その一つが、行政が遠くなってもサービスが落ちないようにするために、旧安塚町の28の全集落に、地縁団体の法人格を持ってもらいました。法人格を持ちますと、規約がきちっとします。会費制の導入や古い人がやめざるを得ないという状況も出てきます。財産も持てますから、集会施設などを払い下げました。「自主的にやってください」「商売してもいいですよ」ということです。
 旧安塚町の8割の世帯が参加する「雪のふるさと安塚」というNPO法人もつくりました。行政がしてきたことを、住民がする受け皿をつくったのです。役場の宿直や警備、有償ボランティア、イベントの開催、コミュニティプラザという施設の管理もしています。これは決して下請け機関ではないと思っています。このNPO法人に、議会の賛同も得て、合併前に8000万円の寄付を町としてしました。こういう地域もあるということをみなさんに知って欲しいし、このような取り組みが、試金石として、大事ではないかと思ってしています。
 自治組織、住民組織をしっかりやろうという気運はむしろ合併したことによって高まっています。

司会 「つなぐ」ということでは、行政や学校との連携ということについてはいかがでしょうか。

工藤 学校と住民団体が一緒に活動していく学社融合を進めています。経費は教育委員会が出し、私たちは労力を提供しています。ここでは子どもたちを外に連れ出し、先ほどの川の清掃、水生生物の調査や笹舟を使っての水量調査、ヤマメの放流などをしています。放流では「親の気持ちになってやさしくしてよ」と、やさしさを教えています。今、非行とか命を大事にしない風潮がありますから、生き物を育てることを通して生命の尊さを教えることが私たちの授業だといえます。


地域の先生として帰ってきたかつての子どもたち

山根 地域の方が講師になって授業をするということを20年前から取り組んでいます。魚屋に魚の3枚の下ろし方を、すし屋にすしの握り方を教わる、あるいは美容院、理容院、警察官、看護師などの様々な職業の方の講座を20講座ほどと、生徒が逆に地域に出て行くということもしています。先生を探してくる役を、学校とつなぐ役を私たちがしています。教師が、「自分の授業をあんなに真面目に聞いてくれたことがないよ」と、授業の仕方を逆に教わっているという感じも受けます。うれしかったのは、その講座を受けた子が、講師役として帰ってきたことです。

金山 行政との関係では、私たちの基本は対話集会ですから、関係する行政の担当課をお呼びし、顔と顔を見合わせて交渉するわけです。ある課へ行って課長と話し、次の課で、またお願いするよりも、顔と顔を見合わせてやっていますと気持ちが伝わり、関係課同士で「そのところは僕のところでやるから、あなたのところはここを」ということでスムーズにいきます。

司会 行政のジョイント役を対話集会でされているわけですね。行政との連携は難しいといわれますが、矢野さん、地域活動をされている方は、どのように行政と連携し、変えていけばいいのか、お気づきの点がございましたら。

矢野 みなさん、政治に参加してないですね。議員はもっと政策論議をして、議会や市長にものを言う、政策集団にならないといけないのですが、その議員に政策集団になってもらうために、市民は問題提起すべきだと思うのです。選ばれた議員をもっと利用する、一緒にスクラムを組んでいく、そういうことが必要な時代です。行政職員はもうオールマイティではありません。自分たちの活動や思いを伝えるため、議員と一緒に、行政担当者とディスカッションするのは、当たり前のことだと思います。
 そして、一番に変わることが求められているのが、町内会長だと思います。町内会長が力を発揮すれば、町内会長の後ろには市民がついているのですから。その地域活動は変わってきます。地域活動を支えていく、変えていくのは議員であり、町内会長や皆さんが、身近に行政や政治を感じていただくことではないか、と思います。


市民として市の予算を知らないのは無責任

司会 将来の問題、これから地域社会はどう変わっていくのだろうか、というところに移っていきたいと思います。矢野さんは市町村の大合併を経験されて、いろんな思いがおありになるだろうと思います。

矢野 一つは、市民が行政に目を向け勉強することだと思うのです。市民の皆さんが市の予算を知らないというのは、無責任です。行政側もある程度情報公開をしているので、知ろうと思えばできます。
 それから、横浜市の小中学生が体験授業で、安塚に毎年5000人ほど来られます。矢野の家に泊まりたいと言ったら、もちろんお金はもらいますが、泊めてあげています。同じようなことを新潟大学の留学生でもしています。泊めてあげられる家が、安塚区には200世帯、全体の約2割はあります。ここで言いたいのは、出会い、つきあい、助け合いを大事にしようということです。みんなで楽しく役立つことをやろうということです。こういうコミュニティの基本が大事だし、新しい公共というのは、ここから生まれてくるのではないかと考えます。

山根 地域づくりは、厚みのある人間関係を積み重ねていく中でしかできないことで、時間がかかります。これからのことを考えてみますと、高齢化になり、担い手がどんどん先細りしています。次の世代をどう育てるか、登場してもらうのかで悩んでいます。即効薬はないけれども、長いスパンをかけ、地道にするしかないのかなと考えています。

司会 生活会議、生活学校でも、次の世代にどうやってつないでいくのかということが大きな悩みの種になっていますが。

金山 私のところも高齢化してきていますが、メンバーに入らないけど、活動の協力者を見出していくということを考えています。子育て中のお母さんに、「参加して」と言っても無理なことです。部分的に、例えば祭りなどに、親子で参加してもらい、そういったなかから、将来につなげていく。これが手段かなあと考えています。

司会 みなさんには『あしたのまち・くらしづくり2006』という冊子をお配りしていますが、ここには、活動を続けていくコツ、次の世代につなぐしかけがいろいろ入っていると思います。ご参考にしていただきたいと思います。最後に会場からご質問を受けたいと思います。

質問 地縁組織の法人格を取得することでどのようなメリットがあるのですか。

矢野 法人格を取るということは、規約をつくるなどの合意形成が必要です。例えば、いつまでも一人の人が会長をしているとか、お年寄りばかりだとかの問題に対し、自分たちの手で新しい規約をつくることによって改革ができると思います。もう一つ、財産が持てるというこということです。過疎化がすすむ中で、一方で田舎が好きだ、住みたいという人がいます。自治会には、そういう人たちを呼び込む活動もあるのではないか。さらには、商売をしてもいいではないですか。要は、行政だけに頼っていたのではだめなのです。


地域活動で「高齢化して困った」はウソ

矢野 それともう一つ、隣近所の関係づくりがあります。家内のところに「今日病院へ行きたいので、あんた行ってくれない?」なんて電話がきます。「じゃあ行こうか」と。これがコミュニティだと思うのですね。タクシーで行けば1万円かかるところ、1000円でもいいと思うのです。そのようなしくみが、思いをつなぐにほかならない。今日のテーマである新しい公共というのは、そういうことも含めて始まると思うのです。
 行政が悪いのではない、合併したから悪いのではない、自分たちがしたいことをできる社会が今できているわけですから。地域活動で、高齢化で困ったというのは、嘘だと思っています。むしろ、若い人の方が、何もしないでしょう。高齢化で困ったのではなくて、高齢化しても活発にしている地域活動を若い人たちに見せる、語る、こういうことが大事な時ではないかと思います。

司会 最後に矢野さんにまとめていただけたのではないかと思います。皆さん今日はありがとうございました。(文責・事務局)