子どものための地域活動 シリーズ2
子どもの『空間』づくり −子どもの居場所を求めて−
第3章 「空間」づくりの進め方
1 ワークショップと空間づくり
(1)地域を診断してみよう

 子どもたちのための空間づくりでは、まずは地域を子どもたちの目で診断してみることから始まります。ワークショップとは議論ばかりではなく、実際に身体を動かして、地域を点検したり、アイデアを出し合ったりと、集団で作業をすることを言います。例えば、子どもたちの遊ぶのに適した場所と危ない場所などを子どもグループ、大人グループと分かれて点検しあい、それを最後に発表しあうと、子どもの視点と大人の視点との違いも明らかになり相互の理解にもつながります。これら互いの意見の違いも知って、それを考える材料として次のステップではどのようにしたら子どもにとっても生き生きとした空間をつくることができるかという段階に進むことができます。このような積み重ねでワークショッブは進めていきます。そしてグループの作業を発表しあい、全体で評価しあうなど、個人から集団へと意見やアイデアを分かち合うダイナミックな展開で、みんなが一緒の感覚を培うことができるのもワークショップの魅力です。

 図は、ワークショップの最初のメニューに適している地域診断の歩こう会の手順です。参加者は6人前後のグループになって地区内を、そのテーマの視点をもって歩き、いいところ、わるいところなど発見したことがらを携帯用の地図に書き込みます。戻ったらそれをカードに1枚1項目の要領で書き写し、グループ用の大きな地図に貼ってグループ全体の診断地図を作成します。それを全体で発表しあうと、グループごとの違いもわかり、また重なって多い意見から共通の認識を強めることもできます。

準備すること 用意するもの
●課題の設定

 コミュニティ全体にわたる総合的なカルテか、テーマを絞り込んたカルテを作成するのかによって課題を設定する。
 当画緊急の課題や特定の事業がない場合、まずは総合カルテを作り、その中から重要なテーマを探り出してから詳細なカルテ作りへ進めた方がよい。

●ワークショップの範囲と日程の決定
 
 点検する範囲(コース)の選定と日程を決定する。

●参加者の選定とチラシ作成

 コミュニティ内の不特定多数の人や関心を持つ外部の人、年齢別、性別、職業別など、ワークショップの内容に応じて調整する。参加募集のためのチラシを作成する。

●チームの編成と役割分担

 参加者が決定したらあらかじめチームに分け、役割分担をする。必要な役割は、(1)チーム・リーダー:ワークショップ全体の進行を総括する。(2)ファシリテーター:直訳すると「物事を進みやすくする人」。サブリーダー的な存在で、作業が円滑に進むよう援助する。(3)レコーダ:記録係。その他写真撮影やビテオを担当する人は、必ずしもグループ単位でなくても良い。

●視点(チェックリスト)の作成

ワークショップの目的に応した視点(チェックリスト)を作成しておく。各チーム・リーダーおよびファシリテーターは、事前に理解しておく必要がある。
ワークショップの開催にあたって注意すること

●何のためのワークショップか?結果をどう活かすか、見通しをつけて。

 ワークショップをやりさえすればよいというのは間違いで、開催にあたってその結果がどう次の展開に活かされていくのか、何のためにこの作業があるのか、目標と位置づけを明確に伝えておく必要があります。

●積み重ね

 その回の作業の結果が次の回の資源となるような、積み重ねで創造的に進みますので、常にその回で得たことがらをまとめ、次の回に参加者に情報として返していくことが大事です。

●決して落ちこぼれを出さない

会の進行に乗れない人や、作業・発信が滞る人が居ないか常に気を配り運営していくこと。もし居たら、サポート役やグループメンバーが手伝ったり、意見を聞いたり、必要に応じて全体の進行の修正を行うなどの対処が必要です。

 子ども参加の地域診断はまち探検という方が楽しい。以下はその楽しみ方の例です。





出典:住都公団「まちのひみつ なぞをさぐろうまちたんけんガイド」1999  

 さらに、ゲームのようにまち歩きを行なう方法としてタウンオリエンテーリングがあります。以下はまちづくり活動の中で行なわれたプログラムの例です。







(2)地図をつくる

 地域を歩いて点検、発見したことがらを大きな地図に落としてまとめるだけで、いろいろなことが分かってきます。いいところと指摘された場所や緑の分布の地形との関係、水系のつながりとの関係など、地図ならではの空間的なつながりの発見があります。地図を使ったまとめの作業ができるのは地図を読めたり、字が書けるある年齢以上の子どもと思ったら大きな間違いです。字か書けない幼児でも、歩いて印象に残ったことがらを絵に表して地図に貼ったりすることができます。

 地図は世界観の反映でもあり、様々な地図の表現があります。地図を使った情報の収集としては次に示すガリバーマップ*(注1)のようなものや、次ページの三世代遊び場マップ*(注2)のように、人々を巻き込んで共に考えてもらうような仕掛けのものがあります。



図T 子どもたちによる点検地図(太郎丸集落「歩こう会」より)
字が書けない幼稚園児も歩こう会で見たものを絵に描いて参加した。

*(注1)ガリバーマップ
 大きな地図を床一面に貼り、参加者はその地図の上に靴を脱いであがり、自分の家を探したり、そして知っている地域の情報を描きこんだりします。1/1000程度に縮小された地図の上に立つとガリバーになったような気分になり、このような名称がつけられました(子どもの遊びと街研究会主催の地図展より)。

◆ポイント

地図の上に立つとガリバーさんの気分になります。座ったり寝ころんだりすると、まちの上にいるという気分がより感じられます。そこではまちの知っている情報を書いたり、他の人が書いたものを読んだり、1日中あきずに楽しむことかできます。

◆材料

住宅地図(縮尺1/1000〜1/2000のもの)/台紙(厚紙)/両面テープ/スプレーのり/太めのペン各色(油性)

◆方法

(1)住宅地図(1/1000〜1/2000)をそのままか、あるいは拡大して、厚い台紙に貼り、タイルを敷くように床に敷きます。会場の大きさに合わせて、床一面、地図になるように敷いたほうがガリバー気分が増します。



(2)参加者は床に敷かれた地図の上に靴を脱いであがり、自分の家を探し、印をつけたり、地図の中を散策し、知っていることがらを描きこみます。どこか人の集まる所(たとえば役所のロビーなど)に置いて、次から次へと書き込むようにするといいでしょう。




*(注2)三世代遊び場マップ

 おじいちゃん・おばあちゃん世代、おとうさん・おかあさん世代、そして今の子どもたちと、地域で子ども時代を過ごした人たちに子ども時代にどこで遊び、どんな遊びをしたかなどを聞いて地図に落としたマップです。三枚の地図で地域の環境の変化と暮らしや人間関係のとり方の変化など様々な変化の様子がわかってきます。

 このような地域の歴史的変化をみることから子どもたちの空間を地域の中で考える視点が、単に調査をする人たちだけではなく、話をした人や、地図を見た人たちに共感をもって広がっていくことが魅力です。

◆ポイント

なつかしんだり、楽しい気分で語る中で、語り手は人間と環境との大切な関係について感じることができます。聞く方にとっては、人それぞれの遊び方や共通点、時代による環境の変化など学ぶ点が数多くあります。

◆材料地図

(縮尺1/2500)/ペン/白紙/ノート

◆準備

地域の昔の様子を知る資料は集めて調べておきましょう。

◆作り方

その地域で育った大人や子どもの三世代にわたって、子どもの頃の思い出話を聞き、イラストマップに表します。



◆聞き取りを元に「個人の遊び場マップ」(個人シート)を作成します。




(3)地域のビジョンと計画づくり
 地域の環境を診断している作業中にもすでに、「ここを直した方がよい」という改善点や「こんないいところがあった」という保全すべきところなどの感触を得てきますが、診断した結果を受けて、次の作業として計画づくりがあります。間題点ばかりをとりあげるのではなく、地域の良い所を伸ばしていくような、地域の特色を生かして、将来のビジョンを描くことが大事です。ビジョンと地域診断結果をどうつないでいくか、そのシナリオづくりとして右図のような活動計画表にまとめるのもよいでしょう。計画表は具体的な活動項目をいったい誰が中心になってすすめるか、いつ頃までに行なうかという役割分担や優先順位をつけておくとより具体的に進めることができます。役割分担は行政にばかり頼るのではなく、自分達でできることを明確にして、小さなことでもすぐ取りかかり、具体的な成果を得て、次の展開につながっていきます。絵に描いた餅ではなく、実行性のある計画づくりがポイントです。


(4)施設の構想づくり
 計画の中で公園や広場づくりなど具休的な施設計画があったら、その構想づくりもワークショップ方式などで自分たちで絵を描くとよいでしょう。専門的なことがらは専門家を招いて相談すればよく、やはり構想も地域の診断をもとに課題を認識しながら夢と結ぴつけて描いていくことが大事となります。



コミュニティデザイン研究会「フィールドワークブック」静岡県農政部


(5)実施の段階

 計画の中身の中で自分たちだけで対処できるものは共同作業、労力奉仕によってすぐに実行に移すことができます。広場の整備などに子どもたちが参加できる場面は一緒に作業をした方が子どもたちにも愛着を持たれた空間が生まれることになります。
計画の中の項目で行政がするべき課題は行政の予算化を促したりできますが、予算が足らない面は自分達で基金を募ったり、または行政の補助事業を研究して、何らかの補助事業メニューに乗せたり、様々な助成団体の助成事業に応募したりと予算化を図っていくことも必要となります。



(6)行政や専門家との関係

 地域の空間づくりでは前述のように行政との関係を抜きには考えられません。しかし、子どもに関わる地域の空間に関しては、行政の部門では厚生福祉、教育・社会教育、保健、土木、公園緑地、都市計画、交通、警察というように様々なセクションにまたがり、縦割り行政とよくいわれる行政の仕組みが障害になることが往々にしてあります。行政の中に子どもたちの居場所や空間について考える、様々なセクションを横断する連絡調整機関や部門が設けられるとよいのですが、実際にはなかなかそこまで踏み込んだ対策が立てられていないのが実情です。かつて子どもの交通禍が問題になった時に東京都では遊び場対策本部という横断的な組織が設けられたことがありました。その時には道路や空地の暫定的な遊び場としての開放策が図られました。公園が整備されてきて、そのような緊急対策が必要ないということで、この施策は打ち切られましたが、子どものために横断的な組織をつくることは可能であることを過去の例は示しています。

 現在、社会で問題となっている少年犯罪に象徴される心の闇の問題も含めて、子どもたちの居場所の問題に対して、行政も横断的な対応が必要であり、それを動かすのは住民の力でしかありません。そうは言っても、ますます複雑化する課題に対して、住民だけでは対応しきれないのも事実です。そのために専門家の応援を求めて、協働して進めていくことも必要でしよう。子どもたちの居場所問題を考えていくときに学校の協力が不可欠です。学校教育のカリキュラムに総合的学習の時間が導入されて、地域の課題を組み込んで行なうことが教師の裁量でできるようになりました。そこに課題に応じた専門家が加わることで、地域の課題解決に子どもたちが挑戦していくことも可能となります。

 これからの時代はそのように子どもたちが主役となって地域の空間づくりに子どもの視点を組み込んでいくことが求められ、それを地域、学校、専門家、行政がサポートするという体制が求められてきます。





総合的学習の時間における教師と専門家との協働の関係
学校ビオトープづくりにおける地域の協力
(出典:アダムズ/木下「まちワーク」風土社より)

2 子どもたちの参画と協働−東京・杉並区の児童青少年センターの建設・運営の経験から

(1)「ゆう杉並」で活動する子どもたち

 東京・杉並区児童青少年センタ−「ゆう杉並」は、杉並区の中心に位置し、まだ緑が残された閑静な住宅街の一角の中に建設され、原宿や渋谷といった中・高校生が惹かれるイメージとはかけ離れた地域に存在しています。

 施設に入ると職員・スタッフから「こんにちは」「元気だった?久しぶりだね」と声がかかります。「干渉されるのは嫌、でも無視されるのはイヤ」という中・高校生たちです。彼等へのあいさつ、言葉かけはコミュニケーションを結ぶ第一歩として最も重視されています。受付を済ませてエントランスホールへ入ると吹き抜けのロビーが広がっています。ここでは、おしゃべり、飲食、トランプ、ゲームなど自由に出来ます。カードゲームに熱中する中学生、友達とおしゃべりする女子高校生、カップ麺をすする高校生たち、彼等はここで、のんびりと思いおもいの時間を過ごします。ロビーは、お互いに干渉せず、自由に一時を過ごす、彼等の交流空間なのです。1階奥には、122人座れるロールバックチェア−付のホールがあります。舞台の裏壁面は、フリークライミングの設備が用意され、日常からクライミングの練習が出来るようになっています。ホールでは、最近、ヒップポップダンスが盛んに行われています。年に数回、このホールでライブが行われる際、ダンスのグループも出場し、大いに会場を沸かせてました。

 「ゆう杉並」(児童青少年センターの愛称)の地下には、中・高校生建設委員会が要望した570平米ある大きな体育室があります。バスケットゴールが6面付いています。バドミントンは、公式が3面取れます。ここでは、中・高校生たちが、バスケット、バドミントン、バレー、卓球と自分の体を思いっきり動かし、いい汗を流しています。小学生から高校生まで、まるで一つの桶に入っているようで、群れながら、遊んだり、運動したりしています。およそ、学校や校外の施設では見ることの出来ない風景で、異年齢の群れ集団が存在しているようです。大勢の人間が活動するため、混雑して体の接触や場所のスペースのことで問題も避けられません。そんな時、そばにいる職員やスタッフが気持ちよく遊べるように、空間や人の動きを調整しています。

 2階には、「ゆう杉並」が誇るスタジオが3部屋とミキシングルームがあります。個人登録・利用者講習会・団体登録をすれば無料で利用できます。現在160のバンドが登録をしています。一度に4回まで申請でき、試験前は空きますが、後はほとんど埋っている状態です。このスタジオがあってバンドが結成できたというグループもあり、年に数回行われるライブもここで練習した彼等の絶好の出演機会になっています。

 また、2階には、勉強ができる学習コーナーやファミコンのできる鑑賞コーナーも設置され、中・高校生の多様な要求に応えるように設計されています。この他、地下には工芸調理室があり、クッキングや陶芸・エアーブラシなど、中・高校生の要求に見合ったプログラムを提供しています。

 「ゆう杉並」では、日常的に利用する他に、ギターやボーカルなど音楽系の講座やバスケ、バドミントン、クライミングなどスポーツ系の講座などを用意し、彼等の要望に応えています。メンバ−の固定したオフィシャルチームなどは、定期的に講師を招き、技術の向上に努めています。ここでは、学校や部活動と違うメンバ−と出会うことで新しい仲間関係を築いていっています。

 また、「ゆう杉並」では、女子美術大教授の支援を受け、学校と連携して不登校児の学級が参加する陶芸教室を実施したり、12年度からは、地域で活動する年長(13歳から16歳位)の障害児グループが利用できるよう受け入れを開始しています。

 「ゆう杉並」は杉並区に1か所で、すべての中・高校生の活動をカバーすることは出来ません。地域にある41の児童館と連携して、中・高校生の活動拠点を築いていく中心的役割を担っています。

「ゆう杉並」のロビーは子どもたちの自由なたまり場 スタジオ内での練習の様子



(2)児童青少年センタ−の建設と運営に参加する子どもたち

 児童青少年センターは、平成9年9月、東京・杉並区の荻窪にオープンしました。中・高校生を主な対象とした大型の児童館で、思春期の子どもたちの地域での居場所として全国からも注目を集めています。この施設の大きな特徴は、建設設計の過程で、中・高校生建設委員会が設置され、彼等のプランニングによって基本設計ができあがったことです。子どもが意見を述べ、子どもが意思決定に参加することは、子どもの権利条約にある意見表明権を具体化し、社会参画の理念を現実化したことにほかなりません。全国でも例のないことです。中・高校生建設委員会は、計8回、半年間に及ぶ討議と設計のプランニングを行い、模索と創造の連続のなか、報告書を作成しました。中・高校生が自ら設計に参加したことは、貴重な経験として各方面から評価されています。

 この検討の過程は、子どもたちにおいては、子どもの権利条約を自ら体験するものであり、物事を決定していく上での民主主義のトレーニングを行なったことです。さらに、そこに参加した職員・スタッフにとっては、子どもとのかかわりを考える重要な経験になりました。そして、この取り組みは『参画の梯子』のモデル化で有名なニューヨーク市立大学教授ロジャー・ハート氏の参画の理論に合致するものでした。

 中・高校生建設委員会は、目的を終え解散しましたが、参画の精神は受け継がれ、開設の1ヶ月前に、児童青少年センター中高校生運営委員会が設置されました。委員会の仕事は、利用者の声を施設運営に反映することであり、利用に関する規則やルールを作成することです。委員は、公募と学校推薦によって構成され、16名のメンバーが熱心に活動を行っています。平成12年度の委員会では委員長候補に3名が立候補するなど、委員の意気込みが感じられるものでした。委員会は、彼等自身の手によって運営されています。職員は、実務上、情報提供として必要な時だけ意見を述べるようにしています。

 12年度から念願であった合宿が実現できたことから、学習と親睦が深まり、8月と10月のライブコンサート、厚生省を訪問して委員たちと厚生省児童家庭局長との懇談会、12月の男女平等推進センタ−との共催事業など、以前にはない活発な活動が展開されるようになりました。なかでも特筆すべきことは、厚生省の『年長児童育成の街試行事業』のモデル事業により、メンバー8名が、広島・大阪ヘ調査研究を行ったことです。

 なぜ、中・高校生が調査研究をと疑問の声もありましたが、現地高校生との交流、施設運営の調査で大きな成果を収めることが出来ました。これは、「ゆう杉並」の施設の運営や委員会の活動に生かすことが主な目的でしたが、とりも直さず、彼等の学習と社会参加の一活動でした。調査資料の整理から、原稿の執筆、報告書の構成、パソコンへの入力と高校生の力量をはるかに超える作業をメンバ−で分担し、一冊の報告書としてまとめました。

 たとえ中・高校生でも「活動する拠点、必要な資金、大人による適切なサポート」があれば、様々な取り組みを可能にすることを教えてくれました。13年度は、中学生4名を加え、岩手県水沢市、宮城県仙台市へ向かい、現地で活動するホワイトキャンバスや高校生の自主企画事業のメンバ−と意見交換や現地の街の視察を行い、昨年以上の成果を持ち帰ることができました。

 委員会には、自主企画部会と広報広聴部会の2つの部会があります。自主企画部会は、ライブやアクティブフェスタなどイベントの企画を立案し、実施することです。運営を手がけますから、メンバ−の役割分担はかなりのものになります。広報広聴部会は、利用者からのアンケートや『ゆうネット』通信の発行など利用者コミュニケーションを図るようにしています。また、杉並区長との懇談会を行い、若者の意見を率直に述べるなど対外的な発信も行っています。さらに、「ゆう杉並」が地域との関係が深まることを目的に、近隣の住民との交流会も企画し、施設が地域になじむための努力を、中・高校生の立場から実施しています。

 これらの活動から、中・高校生運営委員会の活動は、施設の利用者の声を代弁するだけではなく、「ゆう杉並」の運営の中心となるものであり、この施設の活動を象徴しているものです。


中・高校生運営委員会のミーティング



(3)様々な問題に対応するゆう杉並と職員

 開館して1年、「ゆう杉並」で子どもたちのトラブルが絶えませんでした。その一つに喫煙の問題があります。街中でタバコを吸う彼等は、施設内で吸うことにためらいを感じませんでした。喫煙は、成長期にある青少年の体に悪影響を及ぼすだけでなく、法律でも禁じられています。この問題では職員は、正面から取り組み、何度となく彼らに説得を試みました。学校の教師も警察も公認しているんだと強がる彼等に、この施設での喫煙を認めることをしませんでした。現在、「ゆう杉並」で喫煙する中・高校生は一人もいません。職員の注意から始まりましたが、今では、自分たちの自律の精神が喫煙とは縁のないものにしている状態です。

 もう一つが喧嘩の問題です。青少年の「ムカツク、キレル状態」はどこでも同じような状況です。複数の中・高校生が集まる「ゆう杉並」ではこの危険性が当然高くなります。あるとき、バスケットの試合で、ちょっとしたルールの行き違いから口論となり、暴力行為に発展、そのことが原因で、地域に戻ってからもトラブルが続いたケースがありました。小学生のもめ事と異なり、高校生の喧嘩は,身体の損傷を伴い、傷害事件にまで発展することもあります。問題が拡大する前に解決の道を探るのは職員・スタッフの努めです。

 「ゆう杉並」では、いくつかの深刻な経験と職員間の総括により、「酒・タバコ・喧嘩」の3つのことを厳禁することにしました。常に、対応を必要としますが、現在では、トラブルもほとんどなく、利用者は、安全と自由の感じる雰囲気のなかで、思いおもいの活動を行っています。しかし、中・高校生を取り巻く社会的状況は、明るい方向にはありません。ストレスが溜まれば、少しのきっかけでも問題の行動が生まれることも十分に考えられます。施設の運営を担当する職員は、来館する中・高校生たちとのコミュニケーションを重視し、彼等との対話を欠かさないようにしています。  


(4)児童青少年センタ−における職員のあり方

 「ゆう杉並」を利用する彼等と職員・スタッフとの関係も、これまでの児童館職員とは少し異なった新しい関係が生まれています。小学生と異なり、彼等と一緒に遊ぶ場面は多くはありませんが、けして大人との関係を断っているわけではありません。口うるさく、干渉する言動には激しく抵抗しますが、不安に思っていることや,問題の解決を図りたいことに関しては、職員やスタッフの誠実で熱意あるコメントや指針を求めています。ここで、職員がどのような接し方や態度をするかは、彼等の動向に直接影響することです。これまでにない施設だけに、職員の言動を絶えず点検する必要に迫られています。

 職員のあり方を述べるとすれば、彼等とのコミュニケーションをはかることを第一に重視し、常に受け入れの姿勢を崩さないことです。そして、彼等の言動に共感を持って接することが,よい関係を築くことになります。この過程で、あるときは一緒に遊び、行動し、時間をともに過ごすことが大切です。また、問題となる行動に対しては率直に指摘し、改善を求めることも職員の仕事であると思われます。

原則的な考え方を堅持しながら、柔軟に、かつ限りなくサポートする対応が求められています。その意味で、職員・スタッフは常に自己研鑽に励み、子どもと同行者的立場で存在することが必要です。


(5)中・高校生の居場所

 児童青少年センターは、子どもたちの参画により、確実に中・高校生の居場所としての機能を高めています。大人・行政はその活動を限りなく支援することを課題としています。居場所の確保は、すべての人間において必要ですが、とりわけ青少年においては、急を要することです。

 中・高校生の居場所と言った時、次の要素が考えられます。第一にはスペース・たまり場・施設など空間としての場が確保されていることです。彼等が集まり、たむろする場です。地域に居場所が必要だと言われた場合、多くはこのことを示しています。

 次に、一定の時間が確保されていることです。空間や場・施設が用意されても、時間がなかったり、制限されていたりしていては役割が半減してしまします。場と時間が用意されると次に必要なことは、彼等が求める様々な活動のメニューです。ある中・高校生においては、ぼんやりとのんびり出来る場が欲しい場合もあります。また、ある子どもたちにおいては、仲間とスポーツしたり、おしゃべりしたりと願う場合もあります。彼らの集う場にどれだけ個々人のニーズを満たす内容があるかです。

 3番目に仲間の存在です。思春期において最も大切なものの一つは友人です。仲間を得る、仲間といることが、この時期何よりも大切と言えます。ピアプレッシャーと言われるように仲間からの排除は最も怖いことで、お互いが影響し合い、新しい人間関係の形成が生まれることが重要です。ここまでは、すでに述べた条件を提供すれば、彼等の力で自主的に進めることが出来ます。

 しかし、現在のように学校や社会からの強い刺激により、子どもの心身にゆがみが生じ、不安や悩み、ストレスが蓄積されてきた時、その気持ちを受け止め、相談に乗り、問題を解決に導くことの出来る大人の存在が必要になってきます。一見明るく振舞う彼等に悩みはないとさえ感じることがありますが、実態は逆で、少しのことでもすぐに反応する彼等の心は、ささくれだった状態です。こうした、彼等の気持ちや行動、考え方を理解する大人の存在はたいへん重要です。その意味で、職員・スタッフの果たす役割は大きいと言えます。こうした要素に加えて、居場所が絶えず地域社会と接点を取り、交流を持っていることです。彼等の存在を大人や地域社会が認め、無用な反発を避け、お互いが理解しあうことが求められています。自分と意見の違う人たちとも交流できる考え方が重要です。

 児童青少年センターは、今後、青少年の居場所として機能をますます発揮し、現在、日本社会が抱える青少年の生き方・あり方に対して、現場の実践を通じて問題提起をしていくことになるでしょう。