子どものための地域活動 シリーズ2
子どもの『空間』づくり −子どもの居場所を求めて−
第4章 生活学校での取り組み方

(1)共通認識を固める

 何故、子どもの「空間づくり」が必要なのか。まず、共通認識を持たなければ、一歩を踏み出せません。いま、生活学校で取り上げたいテーマは多数あると思います。介護の問題、ゴミ減量やリサイクル、環境保護、遣伝子組み換え食品など、どれも重要です。しかし、少子高齢社会を支える役割を担っている、今の子どもたちの状況がどれほど、緊急なものか。学習し、話し合い、共通認識を固めましょう。


(2)地域の公共施設を調べる

 共通認識を固めるためにも、まず、地域の人口構成のあらましを頭に入れておきましょう。これは、どのテーマを課題にするにしても、基本です。それと、子ども(0歳から18歳まで)にかかわる公共の施設を、学校や図書館をはじめ、すべて調べて、地図に表しましょう。いつも、漫然と、自治体の広報などを見ていることが多いと思います。あらためて、地図にすると、こんなにもいろいろあるものか、あるいは足りないかを、再認識できるでしょう。

 乳児院とか、養護施設など、つい念頭から抜け落ちがちかもしれませんが、ちゃんと調べましょう。

 できれば、こうした施設を見学して、その内容をあらまし理解しておくことが望まれます。理解することで、問題点も見えてくるものです。


(3)自治体の「エンゼルプラン」を知る

 少子化を日本の将来にかかわる重大事と受け止め、国は「エンゼルプラン」(子育て支援施策)を1994年に打ち出しています。その緊急的施策として、1999年末には、表4-1のような「新エンゼルプラン」を発表しています。

 これを受けて、各自治体が地域の子育て支援施策を実際に具体化する仕組みです。自治体が自分の地域には必要ないと考え、住民からも要望がないといった場合には「エンゼルプラン」はつくられないことになります。自分の住む地域に、「エンゼルプラン」があるかどうか、調べることも必要です。

 プランがある場合、その内容や予算はどのようなものか、知ることが大切です。「まちづくり」に、このプランが盛り込まれているところもあります。「エンゼルプラン」といっても、乳幼児ばかりでなく、児童・生徒も対象となります。

表4-1 新エンゼルプランの要旨

<施策の目標>
1 保育サービス等子育て支援サービスの充実
2 仕事と子育ての両立の為の雇用環境の整備
3 働き方についての固定的な性別役割分業や職場優先の企業風土の是正
4 母子保健医療体制の整備
5 地域で子どもを育てる教育環境の整備
6 子どもたちがのびのび育つ教育環境の実現
7 教育に伴う経済的負担の軽減
8 住まいづくりやまちづくりによる子育ての支援

<厚生省関係部分の概要>
   1999(平成11)年度 2004(平成16)年度
<保育サービス等子育て支援サービスの充実>    
1 低年齢児の受け入れ枠の拡大 58万人 68万人
2 多様な需要にこたえる保育サービスの推進    
 ・延長保育の推進 7000ヶ所 10000ヶ所
 ・休日保育の推進 100ヶ所 300ヶ所
 ・乳幼児健康支援一時預かりの推進 450ヶ所 500市町村
 ・多機能保育所等の整備 1995〜1999年度の5か年で
1600ヶ所
2004年度までに
2000ヶ所
3 在宅児も含めた子育て支援の推進         
 ・地域子育て支援センターの整備 1500ヶ所 3000ヶ所
 ・一時保育の推進 1500ヶ所 3000ヶ所
 ・放課後児童クラブの推進 9000ヶ所 11500ヶ所
<母子保健医療体制の整備>    
 ・国立成育医療センター(仮称)の整備等   2001年度開設
 ・周産期医療ネットワークの整備 10都道府県 47都道府県
 ・小児救急医療支援の推進 118地区 2001年度までに360地区
(2次医療圏)
 ・不妊専門相談センターの整備 24ヶ所 47ヶ所

1999年12月19日大蔵・文部・厚生・労働・建設・自治6大臣合意
出典:「平成12年度版厚生白書」


(4)青少年活動を知る

 文部科学省では、2002年度の完全学校週5日制の実施に向けて、親と子どもたちの活動を振興する体制を整えようと、「全国子どもプラン(緊急3ケ年戦略)」をすすめています。『「子どもの自由空間」創造プロジェクト』とか、『「あぜ道とせせらぎ」づくりプロジエクト』、『「子ども長期自然村」の設置』など、各種の活動が見られます。自分の地域に、どのような青少年活動があるのか、補助金はどの程度か、知っておく必要もあります。


(5)子どもたちをウォッチングする

 放課後や休日、子どもたちがどのように過ごしているか、ありのままを観察しましょう。決して、監視する、探るというような態度ではいけません。同時に、子どもたちに「好きな場所」や「嫌いな遊び場」などを、アンケートするとよいでしょう。その結果をもとに、子どもたちと話し合うと、さらに、子どもたちの気持ちや子どもたちの置かれている生活環境が浮かび上がってくるのに違いありません。


(6)中学・高校生の居場所を考える

 PTA活動をきっかけに、小学生たちと、地域の自然を守る活動などしている生活学校もいくつかあります。小学生たちとは、学校を通じて、そうした連携もとれるのですが、中学生や高校生となると、容易ではありません。しかも、中・高校生ほど、地域に居場所や、それこそ「空間」を見つけにくく、結局、コンビニやファーストフード店で時間を過ごしているのが、大方なのです。

 青少年の飲酒・喫煙問題となっていますが、大人たちはどう対応したらいいのか、とまどっている状態です。コンビニの前にたむろする青少年に声をかけることから、意見を交わすことに成功した住民もいます。教師はもちろん、保健婦、医師、カウンセラーなど専門家とも協力する体制をつくり、地域の大人が青少年と話し合い、考える場を持つ工夫がほしいものです。生活学校は、積極的にお膳立てする努力をしてはどうでしょうか。


(7)情報を発信・収集する

 生活学校のメンバーで調べたこと、見学したこと、アンケート謂査したことなど、できるだけ、情報として発信していきましょう。機関誌をつくっているならば、積極的に知らせていきましょう。機関誌がない場合は、Eメールやホームページなどが活用できると便利です。生活学校の存在を知ってもらうこと、活動の内容を知ってもらうこと、テーマに関して、生活学校以外からの意見を聞くことも運動にプラスになります。

 また、情報機器を利用して、さまざまの情報を収集することも大事です。パソコンを使える会員がいなければ、それこそ、青少年に呼び掛けて、手伝いを頼みましょう。そこから、地域の青少年とのつながりも出てくるはずです。


(8)一つのテーマから、子どもの問題に広げる

 (1)から(7)のことまで、実行したからといって、すぐに子どもの「空間」づくりに取り組むことは難しいかもしれません。その場合、あせることはありません。もし、ほかに、リサイクルとかゴミ減量などに取り組んでいたら、そのテーマを入り口に、子どもの方向に、舵を向けていけばよいのです。例えば、不用品をリフォームして買い物袋をつくるという課題に対して、中学生たちは、若い感性で、母親たちとは異なったアイディアで見事に応えました。束京・板橋区の消費者展では昨年、そんな中学生たちの活躍が見られました。そのうえ、中学生たちは、リサイクルについて、同級生にアンケートして、分析しました。

 リサイクルの問題を導入口に、子どもの「空間」の問題に接近してもよいのです。問題に取り組む道は、一つではないことを忘れないでおきましょう。


(9)学校などとの連携を図る

 先の中学生の消費者展参加には、実は、学校の先生の指導がありました。学校に接触することを敬遠してはいけません。学校も、学級崩壊、不登校、いじめといった問題を抱え、今、変わろうとしています。消費者教育や福祉教育に熱心な教師も少なくありません。PTAや児童委員といった、組織や役割を持つ人の力を借りて、子どもの「空間づくり」の問題に取り組むのも効果的でしょう。最近の学校には、空き教室もかなりあります。その活用も含めて、「子どもたちの空間」の問題をまず、話し合ってはどうでしょうか。少子化で、保育園も幼稚園も、経営的に楽観はできず、魅力的な運営が求められています。「空間」というと、つい、建物的なものを考えがちですが、「ほっとする時間」でもよいのです。読み聞かせ運動をしている生活学校もありますが、例えば、夜間保育のときに、絵本の読み聞かせをボランティアすることから、取り組む方法もあるわけです。どうしたら、地域の子どもたちが健やかに成長できるか、身近な、小さなところから地道に始めましょう。


(10)商店も仲間にする

 スーパーやコンビニ、商店とも、話し合いましょう。リサイクルやゴミ減量の問題からまず入って、子どもの買い物とか、あるいは、いわゆる『有書図書』の問題にも触れていく方法もあるでしょう。是非はともかく、コンビニは、商品だけでなく、種々のサービスを購入する場所にも変貌しつつあります。コンビニ自体も子どもたちの溜まり場的な存在になることを望んではいないはずです。ゲームセンターの経営者とも、できれば接触を持つことが理想的といえます。


(11)マスコミを活用する

 IT革命時代とはいえ、テレビや新間、雑誌などの威力はまだまだ大変なものです。マスコミは、特に、映像や漫画を通して、青少年に好ましくない影響も及ぼしていますが、それだけの影響力をも持っているわけです。まず、子どもたちが好むテレビの番組や、漫画雑誌の内容に関心を持ち、きちんと批判もしましょう。放送局や雑誌社に意見をいいましょう。また、そうした番組や漫画について、子どもたちと意見を交換する試みも大切です。もう一つ、生活学校の活動をもっと、マスコミに知らせましょう。マスコミを通じて、子どもの「空間」づくりを問題提起してもらうのも一策です。もちろん、あくまでも、生活学校主導でなければならないことはいうまでもありません。


図1-4 遊びの楽しさ(小6)1980年と1999年の比較

(子どもの遊びと街研究会『三世代遊び場図鑑』風土社より)
コミュニティデザイン研究会『フィールドワークブック』静岡県農政部 1995

総合的学習の時間における教師と専門家との協働の関係
学校ビオトープづくりにおける地域の協力
(出典:アダムズ/木下『まちワーク』風土社より)