「まち むら」134号掲載
ル ポ

『のんびり、ゆったり、心豊か』に交流活動
香川県高松市 NPO法人奥塩江交流ボランティア協会
 昔からここを見守ってきた大木の懐に抱かれたような広場でバーベキューを楽しむ60人ほどの老若男女。炭火の上では地元産のイノシシ肉や野菜が焼かれ、自家製の竹巻きパンや竹めしが香ばしい匂いを発している。手摘みのお茶の葉をかき揚にした熱々のてんぷらも珍しい。山村の澄んだ空気と爽やかな自然の中で味わう料理に参加者たちの顔が思わずほころぶ。
 食事の前にNPO法人奥塩江交流ボランティア協会の総会が木造講堂で行われた。この会は旧塩江町が高松市と合併した翌年の2006年に発足。
 平成27年度事業報告には、
会員及び行事参加者は、「遊び心」や「心の豊かさ」を大切にし、地域を越えた交流活動を積極的に楽しむ。
「環境」「文化」に関心を待ち、「奥塩江」の長所を生かす活動をする。
「山村」に関心を持ち、「奥塩江」が、過疎化に負けず、元気で、住む人にも訪れる人にも魅力ある地域になれるよう応援する。
と書かれている。

奥塩江ってどこ?

 高松市塩江町はうどん県(香川)のほぼ中央部最南端に位置し徳島県美馬市の美馬町、脇町と接している県境の町。高松市の約21パーセント、80平方キロメートルという広い地域で、高松市の奥座敷として昔から塩江街道で結ばれ、温泉地として親しまれている。
 奥塩江はその南端、自然に恵まれ、人情味に溢れる上西地区。
 高松市と合併直後に地域のコミュニティの場であった元上西保育所の解体話が持ち上がったことで、この地区で生まれ育った元県庁職員の大西佑二さんが保護運動に立ち上がり、地区全戸の署名を集め、連合自治会の有志らとともに高松市長に陳情して懐かしい木造の体育館などが残る施設の撤去を防いだ。
 この建物には、大西さん自身が通った上西中学時代の思い出が詰まっていたし、「昔は、どこの家でも自分の家で結婚式を挙げていた。案内などしなくても近在の人が思い思いの時間に来てくれ、用意したお膳について歌ったり踊ったりして祝うのが当たり前だった。自分のときはご馳走がずいぶん余ったけど…」と笑いながら話すような山村のコミュニティが失われつつあるという危機感があった。
 その後、大西さんを理事長としてNPO法人奥塩江交流ボランティア協会を設立。守った施設を「モモの広場」と名づけ活動を続けてきた。

山村の存続のために

 毎月の定例活動として第一土曜日に「うたごえ喫茶チャロ」を開催。チャロはブータンの言葉で友だちという意味。仲間づくりの場になればという思いが込められている。参加者は、オリジナルの歌集を手に様々な歌を楽しむ趣向だ。第74回の5月7日(土)の歌は、こいのぼり、森の水車、別れのブルース、夜霧の慕情、私の城下町、バラが咲いた…などなど。ピアノとギターの生演奏。ステージに設けられた複数のマイクスタンドでリクエストした人や歌いたい人が自由に出て歌う。ティータイムの時間には飲み物とケーキを楽しみながら話が弾む。
 山村の存続と持続可能な社会づくりのためにチャロの存在は大きいという。

117回目の交流会

 総会の開かれた第三日曜日は第117回「まんぷく会」として奥塩江の特産品イノシシ肉のバーベキューが行われ、アトラクションとして参加した親子のフォーク・デュオ「歳時記」の歌に参加者は聴き入った。
 この会はもともとここで行っていた男性料理教室が母体で食事を介した交流会。毎回、町内の女性が助っ人として支えてくれ、これまで野菜たっぷりスープカレー、きのこ混ぜご飯、打ち込みうどんなど、地元の旬中心のメニューで参加者を楽しませてきた。
 年末には地元の小中学生を招いて餅つきを行っている。山村ならではの小きび、高きび、よもぎ餅なども作り、出来立ての餅に飴やきな粉をまぶしたり、大根おろしを添えたりして味わう素朴な味は昔のまま。お土産の餅は毎回品切れ状態だ。
 食事会の後は音楽ライブや上映会、落語など様々なお楽しみイベントが行われ、住む人と訪れる人が垣根を作らず100回を超えて地域内外で交流してきた。

元気の出る企画が続々

 有志10人で始めたNPO法人奥塩江交流ボランティア協会の会員は年々増え続け、現在約150名。イベントごとに参加者を募集し、会員でなくとも700〜800円程度の会費を払えば誰でも参加できる。県庁時代に瀬戸大橋博覧会に携わった大西さんはその時培ったボランティア精神でこれまで様々なイベントを引っ張ってきた。
 バーベキューで使われた炭は今年の3月上旬の「炭焼き体験」で作られたもの。地元で代々炭焼き技術を受け継いでいる会員の指導で、かつてこの奥塩江で実際に使われていた炭焼き窯を使って、参加者自身が竹を伐採し窯詰めし、焼き上げたもの。
 出されるお茶は、過疎化のために放置され竹や雑木に埋もれていた茶畑を2012年から大勢のボランティアの手で復活させ、手入れし、収穫した奥塩江オリジナル。大滝山を背景にした標高670メートルの高寒冷地(塩江町上西大屋敷)にある茶畑で今年は5月5日に60人以上のボランティアたちが参加し新茶を「手摘み」した。
 参加者には商品化されている「煎茶大滝山引換券」の他、地域にある「奥の湯温泉割引入浴券」がプレゼントされた。

広がる交流の輪

 NPO法人奥塩江交流ボランティア協会は来年度の事業計画として、これまで触れた「まんぷく会」、「うたごえ喫茶チャロ」、「茶畑再生」に加え、そばを流れる香東川の源流も含めた自然環境の活用(環境教育の場として充実や水力発電モデルの製作)、山村文化の継承(地域高齢者とのふれあいや峠をテーマにした活動)、山里を生かす事業(山村地域の広域交流や阿讃トレイルに関わるハイキングや山歩き)、モモの広場の活用(キャンプや合宿、川遊び客、グループ利用)などますます元気の出る企画を用意している。

こころゆたかに

 「モモの広場」という名は、ドイツの童話作家、ミヒャエル・エンデの作品「モモ」に由来している。
「この施設を次の時代のために有効に活用し、多くの人に訪れてもらいたい」という大西さんの願いだ。
 地元の小学生が「モモの広場」についてこんな作文を書いた。
「大西さんは、人に話を聞いてもらい、利口になり、心がなごみ、気持ちが晴れ晴れする場所を作ったのだと思いました。ぼくは、この本を読み終えモモの広場に行ってみました。そこには、時計は一つもなく、大西さんや地域の方がたのあたたかい笑顔がありました」